「死刑台のエレベーター」日本版

名作として名高いルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』。
評価の定まったこの映画を半世紀以上経ってリメイクするという、意外であり意欲作でもあり、おい大丈夫か!?とも言いたくなる日本版『死刑台のエレベーター』が公開された。

改めてルイ・マル版を観てみたが、サスペンスとはこう作るものというお手本の様な映画であり、今の視点から観ると逆に新鮮味に欠けるとまで思わせる内容だと感じてしまった。そのくらい、この映画は後のサスペンスものにエッセンスをパクられている映画だと思う。モノクロの映像、物悲しいトランペット、クールな悪女、2つのストーリーがラストでひとつに重なりすべてが終わる。そして何よりも言葉で言い表せない、全編に漂うムード。やはりこれを観るとリメイクなど無理なのでは?と思わせてしまう内容だった。ここまで完璧な作品を日本版ではどうリメイクしたのか?

女が愛人関係にある男と計画し、自分の夫を自殺に見せかけて男に殺させる。15分の完全犯罪と思われた計画が、男の些細なミスとエレベーターの停止によりもろくも崩れ去る…。というストーリーはオリジナル版と同じ。ではリメイク版になって、どこが違うのか。

このリメイク版のよさは、分かりやすさだと思う。
オリジナル版は全編が92分と短く、細かい説明を敢えてしていないところがあるが、日本版はそこを少し丁寧に説明しており、約20分長い映画になっている分ストーリーが頭に入りやすくなっている。
内容も、映画の冒頭のシーンを含め、細かいシーンをオリジナル版と同じにしてあって、オリジナルを知っている人にオッと思わせる作りになっていて、エレベーターや写真の現像など現代にそぐわないオリジナルの部分も、古い建物・古い街にする事によって現代版としてうまく作っているなと感じた。現代に合わせてカラー映像になっているのも、観やすさの要因だと思う。

敢えて乱暴な言い方をしてしまうと、オリジナル版への入口として日本版リメイクを先に観るというのもひとつの見方としていいのではと思った。オリジナル版へのオマージュを捧げるという事は、ただ同じものを作るという事ではないと思う。オリジナルを名作と思う人達にとって、この映画にはいろいろと言いたい事があるだろう事は容易に想像がつくが、死刑台のエレベーターという名作を現代に分かりやすく提示したこの作品は、娯楽作として十分楽しめるものになっており、原作者にとっても悪い気持ちじゃないんじゃないかな?と勝手に思ってしまった作品だった。

おススメ度:★★★☆☆

Text by 石川達郎

監督:緒方明
制作:2010年/日本/111分
出演:吉瀬美智子・阿部寛・玉山鉄二・北川景子他

公式サイト:http://www.shikeidai.jp/index.html
『死刑台のエレベーター』

10月9日(土)全国ロードショー

配給:角川映画

©2010「死刑台のエレベーター」製作委員会

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