F・ガレルの愛の世界に誘われる、『愛の残像』&『灼熱の肌』連続公開
豊かな黒髪とギリシャ神の彫刻のような端正な目鼻立ちのルイ・ガレルと、訴えかけるような瞳が魅惑的なローラ・スメット。モノクロームで映し出される美しい2人の顔のクロースアップは、観る者を彼らの“愛だけ”の世界へと誘う。フィリップ・ガレル監督が息子ルイを主演に撮った『愛の残像』(09)は、恋人たちを包む濃密な空気だけをフィルムに閉じ込めた一本だ。渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて公開中。7月21日(土)からは 同監督の新作『灼熱の肌』が連続上映される。
写真家のフランソワ(L.ガレル)は、女優で夫のいるキャロル(スメット)と恋に落ちる。しかし、ほどなくして2人の関係は終わりを迎え、悲しみに囚われたキャロルは命を絶ってしまう。それから1年後、新しい恋人エヴと幸せに過ごすフランソワだが、妊娠を告げられて激しく動揺。そんなフランソワの前に現れたのは……。
『愛の残像』の舞台は、現代のパリ。ただし、観客がその時代設定に確信を持つまでには暫し時間を要するかもしれない。それはルイ・ガレルのクラシカルな風貌やモノクロームの映像だけに起因するものではない。ここに登場する男女は、メールはおろか、携帯電話で連絡を取り合うこともせず、時には手紙で思いを伝えあう。登場人物だけでなく、映画の作りもすべてがアナログで、背景は簡素。だからこそ俳優たちの身体、佇まい、そして顔がすべての情感を語り、強い力を持って迫る。
『灼熱の肌』もしかり。ローマを舞台に奔放な画家(こちらもルイ・ガレル)と美貌の映画女優の妻(ベルッチ)の日々を描く同作では、冒頭からモニカ・ベルッチの裸体がスクリーンを支配する。『愛の残像』から一転、同作は情熱的で鮮やかな色彩が印象的。出産後1ヵ月で撮影に参加したというベルッチの脂肪を蓄えた体は、絵画の中の裸婦のように生々しく“女性”を伝える。
2作品とも、圧倒的な女の存在感の前に男はふらふらと振り回され(ルイ・ガレルが演じるから素敵だが)、ただひたすら愛、愛、愛を語る。愛に囚われた男女の姿だけに執着するのは何ともフィリップ・ガレル監督らしく、どこか非常識で非現実的な愛の表現はいかにもフランス映画らしい。それゆえ、ストーリーは大変な悲恋なのに、世俗に生きる日本人の筆者としては別世界すぎてちっとも感情移入できないのだけれど、美しい映像とともに流れてくる愛のセリフを延々と受け取り続けるのもまた、贅沢な映画体験である。映像技術が発達し、情報がいっぱいに詰め込まれた映画を見慣れてしまった今だからこそ、楽しみたい作品でもある。
『愛の残像』
監督:フィリップ・ガレル
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー
出演:ルイ・ガレル、ローラ・スメット、クレマンティーヌ・ポワダツ
フランス/2012/108分 (原題:La frontiere de l’aube)
配給:ビターズ・エンド
(c) 2008 – Rectangle Productions / StudioUrania
監督:フィリップ・ガレル
出演:モニカ・ベルッチ、ルイ・ガレル、セリーヌ・サレット、ジェローム・ロバール、モーリス・ガレル
フランス・イタリア・スイス/2011/95分 (原題:Un ete brunlant)
配給:ビターズ・エンド、コムストック・グループ
(c) 2011 – RECTANGLE PRODUCTIONS / WILD BUNCH / FARO FILM /
PRINCE FILM