プレイ‐獲物‐
刑務所の中では、男たちが「獲物」を求めて、視線を四方八方に向けている。隙あらば、ボコボコにしてやろうという魂胆だ。力のある者は、刑務官と手を結ぶ。ターゲットが決められると、刑務官たちは、開けてはいけないはずの鉄格子をわざと開き、「獲物となる囚人」を、力のある囚人に差し出す。この暴行の模様は、監視カメラを通じて刑務官の控え室に流れ、それが彼らの退屈しのぎになっている。“食物連鎖”の最上位は刑務官だ。
こんな過酷な世界で、主人公のフランク(アルベール・デュポンテル)は生きている。罪状は銀行強盗だ。彼は、人を信用せず誰も寄せ付けず、孤独にひとり自分の身を守っている。刑期も残り僅か、出所後に愛する妻、幼い娘と暮らすことだけが、彼の励みである。そんな折り、同房だった男、モレル(ステファン・デバク)が出所したことから、妻への伝言を託すのだが、間もなく彼によって娘がさらわれ、妻も行方不明になったことが判明する。彼はその外見の弱々しさの裏に残忍さを隠し持つ、連続少女殺人犯だったのだ。危機感を持ったフランクは、刑務所を脱獄、モレルを追跡する。しかし、外の世界もまた、弱肉強食の世界であり、彼は内と同様外でも孤独な闘いを強いられる。一番上位は、もちろんフランクを追う警察だ。LA PROIE(獲物)というタイトルは、こうしたドラマの骨格を表している。
フランクを演じるアルベール・デュポンテルがいい。アクション映画のヒーローには凡そ似つかわしくない顔である。『地上5センチの恋心』では、主婦が憧れる人気作家の役。それが本作では、一転してタフガイである。ランボー張りの野性的な勘と、普通の中年に過ぎない己の肉体をフル稼働して、警察の追手をかわし、かつ娘の行方を追う。生身の肉体は傷つき悲鳴を上げ続けるが、それでもギブアップしないのは、娘への深い愛があるからだ。その様は感動的ですらある。
ハラハラドキドキする追跡劇。中でも刑事たちに追われるフランクが、身ひとつでハイウェイを逆走するシーンは、この映画の白眉とも言える。実際、車と接触しているようにも見えるのだが、そんな危険なアクション・シーンの大部分を彼自身が演じている。CGを使っていないし、派手な爆破シーンもない。カメラを揺らしたり、短いカットでアクション場面をつないだりということもなく、オーソドックスに複数のカメラを使って、アクション・シーンを見せていくだけなのだが、かえって迫力があるのが興味深い。それが、今どきのハリウッド映画へのアンチテーゼとなっている。
▼作品情報▼
監督:エリック・ヴァレット
脚本:リュック・ボッシ、ローラン・ターナー
撮影:ビンセント・マティア
出演:アルベール・デュポンテル、アリス・タグリオーニ、
ステファン・デバク、セルジ・ロペス
原題:La proie
制作:2010年/フランス/104分
公式サイト:『プレイ‐獲物‐』公式サイト
配給:エプコット PG-12
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※6/30(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次ロードショー