『ベルフラワー』新鋭エヴァン・グローデル監督インタビュー:監督を絶望から立ち直らせた、啓示の言葉とは?

「もうダメだ、女は信じられない」。なんともショッキングなコピーであるが、本作は、最愛の女性に裏切られ、絶望と怒りから正気を失った主人公の魂の叫びを凄まじい炎で表現した問題作だ。驚くべきことに、エヴァン・グローデル監督の実体験がストーリーの基になっている。怒りだけでなく、自身のコンプレックスにも正面から向き合った監督の気概に、共感を覚えるのは男性だけではないだろう。
本作のPRで初来日したグローデル監督にお話をうかがった。インタビューには仰天の衝撃告白もあるので、どうぞお見逃しなく。

——『マッドマックス』に惚れ込んでいる主人公なので、バイオレンスの印象が強い作品なのかと思っていましたが、実際は精神的な描写も多い恋愛映画ですよね。彼女への憎しみだけでなく、自身のコンプレックスとも向き合っている。制作は精神的に苦痛を伴う作業だったのではないでしょうか?
グローデル監督(以下、グローデル)「撮影に入る前は苦痛の日々でした。彼女を許すところから始まり、混乱した感情を消化するまでにかなりの時間がかかりました。最初は客観的な視点で脚本を書こうとしていたのですが、途中でそれはバカげていると思いました。怒りから何かを見つけていくというプロセスを描かなくてはいけないと思ったからです。それは自分をさらけ出してしまうことになりますが、できるだけ自分に誠実に表現しようと思い、結果的にあのようになったわけです。だから、サンダンス(映画祭)で上映した時、観た人は自分を大嫌いになるのではと思っていましたが、想像していたようなリアクションではなく、共感して声をかけてくれた人もいたので驚きました(笑)」。

−−“ものづくりへのこだわり”が随所に感じられました。とくに2台の改造車は凄いですね。
グローデル「はい。とくに車は力とか強さを表す象徴でもあります。乗っている車によって、自分がよく見えるんじゃないかというフシはあるのかもしれない(笑)」。

——存在感たっぷりの改造車“メデューサ”ですが、その名前の由来は?
グローデル「昔、『マッドマックス』を観て、もし自分たちがいつか終末的な映画を撮るなら、その車の名前は絶対に“メデューサ”にしようと親友と決めていたんです。誰もが終末的なイメージを想起するからです。また、清らかな女性が併せ持つ“もう一つの顔”というのもテーマ的に合うと思いました。本来のメデューサのイメージです」。

−−今も私用車としてメデューサに乗っていると聞きましたが、警察に捕まったりしないのですか?
グローデル「はい。火を噴いて走っても、アメリカでは警察がその場にいなければ大丈夫です(笑)」。

−−本作のキーワードにもなっているヒューマンガスとは、監督にとってどういう存在なのでしょうか?
グローデル「『マッドマックス2』にヒューマンガスという究極の悪者が登場するんですが、逆に可笑しいぐらいの悪者で、本作でもジョークとして男たちの会話で交わされています。映画の冒頭にも引用している“だれもヒューマンガスに逆らうことはできない”という言葉は、誰も彼を打ち負かすことはできない、つまり、完璧で強大な男であれば何者にも影響されない、ということを意味しています(照れ笑い)。それは、傷ついていた自分に、啓示のように降りてきた言葉であり、本作を撮るきっかけになった言葉でもあります」。

※ここからの質問は映画鑑賞後に読んでいただくことをオススメします。ネタバレではありませんが、その方がより一層お楽しみいただけると思います。


−−ところで、本作は実体験が基になっているとのことですが、もし当時の彼女が観たらビックリするでしょうね。
グローデル(笑いながら)「何て言ったらいいのかな…、実は、彼女は観ています」。

−−えっ? 彼女から何か連絡があったのですか?
グローデル(ためらいがちに)「・・・あなたは開けてはいけない箱を開けてしまいましたね。実は、その元カノというのは、本作で彼女役ミリーを演じているジェシー・ワイズマンなんです」。(※全米では非公開情報)

—−えぇっ、それは驚きました。彼女よく出演してくれましたね。
グローデル「彼女の方から出演すると言い出したんです。そういう意味では本当に凄い女性ですね。素晴らしい!(笑) 付き合っていたのは10年ぐらい前で、恋人として付き合っていくのは難しかったのですが、共演して一緒に映画を作るのはウマが合いました」。

−−監督は本作で主演もされていますが、監督と俳優ではどちらの方が好きですか?
グローデル「監督として映画を作る方がいいですね。カメラの裏にいる方がいい。ただ本作に自分が出たのは、実験的な意味もあったので。ジェシーと自分の二人が、過去の自分たちを再現するという意味で、出演する意図があったと言えます」。

(取材後記)まさか、リリー役のジェシーが元カノだったとは…。正直に言うと、インタビューの最初にそれを訊いた私はしばし言葉を失い、脳内で色んなシーンを再現した後、ようやく気を取り直してインタビューを再開できたのでした。彼女、劇中でも根性の据わった演技をみせているけど、やはりただ者じゃない。コオロギ食い競争のシーンでも、本当に生きたまま食べたというから驚きだ。一方、グローデル監督は実際に会ってみるとよく笑うし、照れながらも正直に話してくれる誠実さが印象的だった。愛する人に裏切られた時の混乱、怒りや弱さなど複雑な感情が画面から伝わってくるが、インタビューを通して、怒りの勢いで撮ったわけではなく、自身の弱さときちんと向き合って作った作品だからこそ、共感を呼ぶのだと納得した。現在は次回作の脚本も書き終えて順調のよう。資金も集まって、制作環境はかなり良くなっているのだとか。気になる次回作は、「自分が知っていることしか書けないけど、本作よりは抽象的なものになるでしょうね」とのこと。何かと型破りなグローデル監督から、今後も目が離せない。

本作『ベルフラワー』は6月16日(土)より、シアターN渋谷にて爆炎ロードショー!

▼エヴァン・グローデル プロフィール▼
1980年8月4日、ウィスコンシン州出身。自らの体験をテーマにしたこの映画に人生を賭け、情熱のすべてを注ぎ込んで長編映画監督デビューを果たした。映画制作を夢見て、20代前半に仲間たちと一緒にカリフォルニアに移住。ブラザーズ・グローデル社を設立し、奇抜な短編をネット上に発表して熱狂的なファンを獲得。現在は“Tales From The Apocalypse”という長編シリーズを準備中。

▼『ベルフラワー』作品情報▼
監督・脚本:エヴァン・グローデル
出演:エヴァン・グローデル、ジェシー・ワイズマン、タイラー・ドーソン、レベッカ・ブランデス、ヴィンセント・グラショー、メデューサ(72年ビュイック・スカイラーク)
制作:アメリカ/2011年/106分
配給:キングレコード、ビーズインターナショナル

公式サイト:http://bellflower-jp.com/
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