ちょんまげぷりん

奇想天外な物語に家族と人生賛歌のメッセージ

今最も勢いのある日本人監督の1人、中村義洋の最新作は、江戸時代から現代にタイムスリップしてきた侍がパティシエとして活躍する奇想天外な物語。「アヒルと鴨のコインロッカー」以来、「チーム・バチスタの栄光」、「フィッシュストーリー」、「ジェネラル・ルージュの凱旋」と次々に話題作を送り出すヒットメーカーが、主演に“NEWS”“関ジャニ∞”の錦戸亮を迎え、期待を裏切らない痛快コメディを作り上げた。

幼稚園に通う子供を抱えたシングルマザーひろ子(ともさかりえ)の目の前に、ある日突然、江戸時代の侍、木島安兵衛(錦戸亮)が現れる。目の前の現実が理解できずに戸惑う2人。だが、息子友也(鈴木福)が親しくなったことから、ひろ子は安兵衛の面倒を見ることに。“家事は女がするもの”と考える安兵衛だったが、居候するわけにもいかず、仕事を抱えるひろ子に代わって家事を引き受ける。次第に家族のような関係を築き上げていく安兵衛とひろ子、友也。やがて、お菓子作りの才能に目覚めた安兵衛は、手作りケーキコンテストに出場することになるが…。

あらすじを読めばわかるが、所詮は荒唐無稽なお話。だが、そんな物語を中村監督はきめ細やかな演出と展開で違和感なく、説得力ある作品に仕上げた。山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」をイメージしたという安兵衛は、時代考証を踏まえたきめ細かい演出で、振る舞いや言葉遣いは侍そのもの。恰好だけ侍で振る舞いは現代っ子、という子供だましには終わらない。さらには、安兵衛がパーカーを着るときには、ジッパーを閉めずに着物のように“左前”といった笑いまで盛り込んでいる。所在なげに佇む安兵衛役の錦戸亮と、バリバリ仕事をこなすシングルマザーのひろ子を演じるともさかりえのキャラクターの対比も効果的で、テンポよく展開する。

だが、ここにあるのは、タイムスリップしてきた侍のカルチャーギャップから生まれる笑いだけではない。基本となるのは名作「シェーン」や「遥かなる山の呼び声」にも通じる物語。そこに江戸時代の侍と現代のシングルマザーの組み合わせで家族のあり方を模索するドラマと、パティシエとしての才能に目覚める安兵衛の姿を通じて、チャンスはどこに転がっているかわからないというメッセージが込められている。

カルチャーギャップから生まれる笑いと、家族と人生賛歌のメッセージ。これらがバランスよく組み合わさり、涙あり笑いありで、誰にでも楽しめる心温まるドラマとなった。安兵衛とひろ子のやり取りは、見終わった後、笑いだけではない何かを残してくれるはずだ。

text by いの

【監督・脚本】中村義洋
【音楽】安川午朗
【撮影】小林元
【出演】錦戸亮、ともさかりえ、鈴木福
2010年/日本/108分

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