『ポテチ』伊坂幸太郎ワールドの真骨頂! ひとつの謎を巡る濃密な68分の物語
「僕、すごいことに気付いちゃったんです。」ある男の告白から、この映画は始まる。
原作は伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」に所収の同名短編小説。メガフォンを取ったのは、中村義洋監督である。伊坂作品はこれまでに8本が映画化されているが、そのうち半数(『アヒルと鴨のコインロッカー』(06)、『フィッシュストーリー』(09)、『ゴールデンスランバー』(09)及び本作)が、中村監督によるものだ。そして、「伊坂×中村」作品にすべて参加している役者が主演となって製作されたのが本作。冒頭の「すごいことに気付いた僕」が、濱田岳演じる主人公、今村である。
今村は一体何に気付いたのか? これはその一点を解明するための、68分の物語だ。しかし単なる謎解きではない。ミステリーの様相を呈しながらも、運命に翻弄される人間の苦しみや不条理、それを乗り越えたところにある温かさ、悩み苦しんだ者のみに許されるかのように訪れる小さなミラクル。それが本作、いや、伊坂幸太郎と言う小説家の作品に共通した魅力なのである。
宮城県仙台市。空き巣稼業の今村は、恋人の若葉(木村文乃)と、地元のプロ野球選手・尾崎のマンションに押し入る。実は同業者の黒澤(大森南朋)に、マンションの場所を教えてもらったのだ。そこに偶然とある女から電話が入り、留守電を聞いた今村は尾崎の代理で女に会いに行くところから、事態が動いていく…
ここでのネタバレは避けたいのだが、物語のポイントは、登場人物たちの思いが一方通行なところではないかと言う気がしている。重大な事実に気付いた今村はある人への思いを新たにするが、本人には決して言い出せない。若葉は、自分には何も語らない恋人の心情を察し、彼女なりの優しさで見守る。今村の相談を受けた黒澤は、「俺は人の気持ちがよくわからない」と語りつつ、秘密の行動に出る。そして、彼らの思いを全く知らずして、野球選手の尾崎は、スタメン起用がないものの、日々練習を積み重ねていつ来るともしれない機会のためにひたすら準備をしている。
相手には伝わらないかもしれない、自分の思い。でも、それでもいいじゃないか。「あること」を通じて、彼らは知らずのうちに繋がっていく。そして、一人一人の思いが、あのラストに収束されていくのだ。
「ただボールが遠くに飛ぶだけで、人は救われるのか?」
その答えを探しに、どうか劇場に足を運んでみてほしい。
Text by 外山 香織
オススメ度★★★★☆
製作国:日本 製作年:2012年
監督・脚本:中村義洋
出演:濱田岳、木村文乃、大森南朋、石田えり
(C) 2007伊坂幸太郎 / 新潮社 (C) 2012『ポテチ』製作委員会
公式HP http://potechi-movie.jp/
2012年4月7日(土)より仙台先行公開 5月12日(土)より新宿ピカデリーほか全国公開