レオナルド・ダ・ヴィンチ展 in シアター

美術展×映画のコラボ!世紀の展覧会がヴェールを脱いだ

Leonardo da Vinci……「ヴィンチ村のレオナルド」。多くの日本人は彼のことをダ・ヴィンチと言うが、むしろレオナルドと呼ぶべきである。世界で最も有名な「レオナルド」、ファーストネームだけで通用するのはおそらく彼だけだ。

さて、彼の絵画を集めた稀有な展覧会が、ロンドンのナショナル・ギャラリーで2011年に開催された。なぜ稀有なのか? 67年の生涯で彼の残した絵画は20点に満たない(完成作はさらに少ない)のだが、今回の展覧会では世界各地より絵画9点(カルトン含む)が集結した。さらにそのうちのひとつ「救世主キリスト」(個人蔵)は、レオナルドの真筆と言われており、世界で初めて一般公開されている。しかし、このたび注目を集めている最大の理由…それは2枚の「岩窟の聖母」が初めて一緒に展示されたという点にあるだろう。

「岩窟の聖母」 1508年頃 ロンドン ナショナル・ギャラリー

「岩窟の聖母」を巡るミステリー
1枚はパリのルーヴル美術館に、そしてもう1枚はロンドンのナショナル・ギャラリー(以下「NG」)に収蔵されている「岩窟の聖母」は、このたびNG版の修復が終了したことを受け、いわば記念的に同時展示された(個人的には、よくまあルーヴルが貸してくれたと思う)。問題は、なぜ同名の絵画が2枚あるのかということである。一番知られているのは、先に描かれたルーヴル版(1485年頃)が、注文主(ミラノの教会)を満足させることができず代金の未払いで揉めたため、画家が2枚目(NG版 1508年頃)を描いたという説。絵の構成はほぼ同じだ。中央の青衣の女性が聖母マリア、向かって右に座る幼子がイエス、左で膝をついている子どもは洗礼者ヨハネ。一番右手にいるのが天使だ。最も異なるのは、ルーヴル版では天使が思わせぶりにこちら側を向いており、洗礼者ヨハネを指さしている点。一方NG版では、天使の不自然な動きはなくなり、代わりに光輪やアトリビュートが付加され、宗教画としてわかりやすくなったと言えるだろう。制作時期はかなり異なっており、画家本人ですら「一緒には見ていない」と思われるこの2点を、我々が同時に目にすることができるとは、何とも感慨深い。修復を終えたNG版は、色彩が驚くほど鮮やかで、特に寒々とするほどの青い色が独特な雰囲気を醸し出しており、同名とは言えもはやルーヴル版とは全く違う絵画である。こうなるとルーヴル版もぜひ修復を、と思いたくなる。

さて、映画自体は、ギャラリーの様子を丹念に映しながら、絵の解説もふんだんに盛り込み、観る人たちの知的好奇心を十分に満足させてくれる。一方、学芸員や修復に携わったスタッフ、額縁職人にも目を向け、普段見ることの少ない彼らの仕事ぶりをも生き生きと伝えている。この展覧会が実現したのはまさに企画者やスタッフの情熱によるものであることに、心を動かされずにはいられない。

「救世主キリスト」 16世紀頃 個人蔵

展覧会そのものは、前売り券が即完売、当日券を求める人が長蛇の列をなしたほどの盛況ぶりだったと言う。絵画に限らず、美術や音楽はその場に行ってLIVEで味わうのが一番だと私は思うが、この『レオナルド・ダ・ヴィンチ展 in シアター』(英題:LEONARDO LIVE)は、映画という手法を通して、LIVE感をいかに近い形で味わうことができるかという、実験的な取り組みと言えるのではないだろうか。オペラやコンサート、歌舞伎が映画という形で楽しめるようになった時代、いよいよ美術展という見せ方も新たな段階に入ったのだと言う気がしている。

 

 

 Text by 外山 香織

オススメ度★★★★☆

製作国:イギリス 製作年:2011年
製作総指揮:フィル・グラブスキー
公式HP  http://davinci.gaga.ne.jp/
(C)BritishSkyBroadcasting/PhilGrabskyFilms.com

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