『モンスターズクラブ』豊田利晃監督×瑛太、4回目のタッグ。爆弾魔となった孤高の青年の内面世界とは

ひとつ、本作の鑑賞前に入れておくべき予備知識があるとしたら、米国に実在した爆弾魔「ユナボマー」についてであろう。18年にわたり大学等に爆弾を送り続け全米を震撼させた犯罪者。その正体は、明晰な頭脳を持ち大学助教授と言う職にありながら社会から離脱し、山奥での隠遁生活を送っていた男であった。産業社会の破滅を謳った自筆の犯行声明文が公にされたことにより、筆跡を知る実の弟がFBIに通報、逮捕に至っている。

豊田監督は、この犯行声明文に刺激を受け、本作の構想を練ったと言う。雪深い山奥の小屋に一人で暮らし、爆弾を作っては送りつけている青年、垣内(瑛太)。その目的は、人間たちを支配する産業テクノロジー社会というシステムを破壊するため。そして彼は最後の手段に出ようとしていた…。内閣総理大臣への爆弾である。

映画の中で、垣内は産業テクノロジー社会の悪を滔々と独白する。広告とマーケティングに踊らされる物質社会、いつしか自分の思考や生き方すら制御されてしまうようなシステムへの大いなる疑問。それは多かれ少なかれ、現代に生きる我々が抱いたことのある感情ではないだろうか。観る者は、まさにその感情に火を点けられ、垣内のフラストレーションを自分のものとするのである。

ところが、突如彼を訪れた「家族」によって、青年の内面世界は激しく動揺することとなる。特に、兄(窪塚洋介)との緊迫感あふれる対峙は、この物語の核になっている。結局人間は、そのシステムから完全に離れては生きていけない。彼自身も、最小限の隠遁生活とは言え、生きるためには産業テクノロジーの恩恵を得ているはずなのだ。システムから永遠に解放されたいなら、それはもう死しかない。

人類の長い歴史の中で、世界を変えたいと思っている人間が、おそらく突き当たったであろう壁。それは、嫌悪しながらもその世界に所属せざるを得ないというジレンマではないだろうか。いやむしろ、「こっちの世界」にいなければ、世界は変わらないのかもしれない…。

雪に覆われた原野と、自分だけの山小屋。青年は、社会と言う泥沼にそこから小石を投げ入れているに過ぎなかった。それに気づいた彼が辿り着こうとしているのは一体どんな風景なのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★☆☆

製作国:日本 製作年:2011年
監督・脚本:豊田利晃
出演:瑛太、窪塚洋介、KenKen、草刈麻有、ピュ~ぴる

公式HP http://monsters-club.jp/
4/21(土)より、ユーロスペース他にてロードショー
配給:ファントム・フィルム
©GEEK PICTURES

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