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映画の魅力再発見!旧くて新しいサイレント映画の世界

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© La Petite Reine – Studio 37 – La Classe Américaine – JD Prod – France 3 Cinéma – Jouror Productions – uFilm

「今どきサイレント映画なんて!とっとと出ていけ!」これは、メル・ブルックス監督『サイレント・ムービー』(76 年)のセリフ。ところが、そのサイレント映画が、2012年アカデミー作品賞を受賞した。こんなことは、誰にも想像できなかったことだろう。それゆえに製作者たちの勇気をまず称えたい。

話自体はよくあるものだ。例えば、サイレント時代一世を風靡したジョン・ギルバートという美男俳優。彼とグレタ・ガルボのラヴ・シーンは、当時アメリカ映画史上最高のものと絶賛され、多くの女性ファンを熱狂させた。ところが彼は、トーキー時代の到来で一夜にして没落、1936年、酔っぱらって夜ひとりボートを沖へとこぎ出し二度と戻ってくることはなかったという話…このドラマチックな実話をヒントにいくつもの作品が作られてきた。例えば『スタア誕生』(37年)。

ビヴァリー・ヒルズの邸宅からHOLLYWOOD“LAND”の丘を横目に、サンセット・ブルバードを真っ直ぐ進み、撮影所の門をくぐってスタジオに入る生活。それだけで夢の世界であるが、モノクロ、サイレントだとその夢が信じられるから不思議だ。また、そんな世界にありながらも、話は荒唐無稽というわけでもない。人気俳優ジョージ(ジャン・デュジャルダン)が、トーキーの時代に乗り遅れ、落ちぶれていくさま、その時の心情は、よくわかる。大切にしていたものを、一枚一枚衣服を剥ぎ取られるかのように失っていく時の心の痛み。尾羽打ち枯らし、他人の厄介になることの心苦しさ。誇りを失う時の惨めさ。余計なセリフがなくシンプルだからこそ、より一層純粋に気持の動きが伝わってくる。

もちろん感情表現を映像で見せるために、さまざまな工夫がされていることも忘れてはならない。落ちぶれた後、己を見下ろしていた自分の肖像画の残酷。ウインドウ越しに写る自分のボロボロの姿に、お店に置かれた彼のかつてのトレードマークだった衣裳が重なるシーン。階段を下りて行くシーンのリフレインと底なし沼に沈んでいくイメージ。彼の頭の上に彼を嘲笑する人々の口元がオーヴァー・ラップするシーン。音が鮮やかに響いてきても、決して声は聴こえてこない夢のシーンでの彼の焦り。挙げていればきりがない。皆どこかで観た気はするのだが、単なるオマージュに堕ちていないところが、この作品の優れたところである。数々の映画の記憶がミシェル・アナザヴィシウス監督の頭の中で熟成され、そのエッセンスが溢れだしてきたかのようだ。これらは映画が本来持っている映像表現の豊かさ、可能性というものを思い出させてくれる。

そしてこの監督の視点はなんとも温かい。『サンセット大通り』の執事を思わせるような堅物(ジェームズ・クロムウェル)の意外な優しさ、忠実なる飼い犬(アギー)のご主人思い、スタアとして成功した後も変わらぬペピー(ベレニス・ベジョ)のジョージへの一途さ。昔はこんなハリウッド映画をよく見かけたような気がする。忘れていた何かをこの作品は思い出させてくれる。そんな作品をフランス人の監督が作り、それに対してハリウッドが惜しみない拍手を送ったこと。これがまた嬉しい。

オススメ度:★★★★★
Text by 藤澤 貞彦


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© La Petite Reine – Studio 37 – La Classe Américaine – JD Prod – France 3 Cinéma – Jouror Productions – uFilm


【作品情報】
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
撮影: ギョーム・シフマン
音楽:ルドビック・ブールス
出演:ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェル、ペネロープ・アン・ミラー、マルコム・マクダウェル
原題:The Artist
制作:2011年/フランス/101分
公式サイト:『アーティスト』公式サイト
配給:ギャガ
※2011年アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞他5部門、第64回カンヌ映画祭主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)

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