ヘルプ~心がつなぐストーリー~
映画の舞台、アメリカミシシッピ州といえば、貧困、人種差別といった悪いイメージがすぐに浮かんでしまう。1960年代は、公民権法がようやく成立した時代だ。こうした時代背景をもった『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』の物語は、もはや歴史の中の出来事と言っていいだろう。もっとも、南部の上流階級に生まれ、大学を卒業して故郷に戻ってきたスキーター(エマ・ストーン)が、身近な所で差別されている黒人家政婦たちの存在に疑問を感じ、彼女たちの声を拾うことで社会に対し問いを投げかけようとしたことは、ケネディ暗殺、公民権法の成立といった歴史的事実に較べれば、小さな出来事かもしれない。
しかし、「雇い主のトイレに入ってクビになった」「どんなに困っていてもわずかなお金さえ貸してくれない」「泥棒呼ばわりされた」など、スキーターに自分の体験を話し始めた彼女たちの勇気は並大抵のものではない。このような小さなことでも、真実を語ることは、仕事を失い生きていけなくなることを意味しているからだ。ところが、こうした庶民の小さな勇気の積み重ねこそが、社会を変え、やがて歴史の大きなうねりとなっていく。現実の出来事で言えば、「白人にへりくだるのはうんざり。バスの前の席に座りたい」そこから始まった有名なバス・ボイコット運動も、本作と同じような家政婦たちの草の根運動なのであった。その事件を描いたウーピー・ゴールドバーグ主演『ロング・ウォーク・ホーム』の中で、運動の支持にまわる女性を演じていたシシー・スペイセク、ナレーションを担当していたメアリー・ステイーンバージェンを本作に出演させているのは、そのことを意識してのことだろう。
一方、差別している側の女性たちも一定の枠の中に押し込められている。婦人会の会長ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)は、世間を体現しているかのような人物だ。一定の年齢になったら結婚して、子供を産んで、家政婦を置く。ご近所の主婦とブリッジに興じ、チャリティー活動をする。家庭に閉じこもる貞淑な妻が理想の生き方という刷り込みに従って生きている。こうした人がまた、男女を問わず世間から称えられるから、周りの人間もここからはみだすことが脅威となる。現に、余所者でセクシーな洋服を着て、自由に生きているように見える女性は、善の心の持ち主であるにも関わらず、軽蔑され相手にされない。差別とは、個人的な考えというよりも、世間によって形作られてしまうということがよくわかる。そして、ここから一歩踏み出す人が増えることでしか、世間というものは変わっていかないものだ。
「女性の参加なしで成功した運動がアメリカ黒人史にひとつもあるのか」これは、バス・ボイコット運動を描いた『ゲット・オン・ザ・バス』の中に出てくるセリフだ。社会は、政治家だけが変えていくものではない。生活の身近なところで、苦労を強いられる女性たちが声を上げることから変わっていくこともある。この作品は、こうした女性たちを称え、これから社会を変えて行くだろう女性たちにエールを送っている。
オススメ度:★★★★★
Text by 藤澤 貞彦
【作品情報】
監督:テイト・テーラー
脚本: テイト・テーラー
撮影: スティーブン・ゴールドブラット
出演:エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、ブライス・ダラス・ハワード、オクタビア・スペンサー、アリソン・ジャネイ、ジェシカ・チャステイン
原題:The Help
制作:2011年/アメリカ/146分
公式サイト:ヘルプ ~心がつなぐストーリー~公式サイト
配給:ディズニー
※2011年アカデミー賞助演女優賞(オクタビア・スペンサー)他