『魔法使いの弟子』 オタクの星(?)ジェイ・バルチェルの成長を見届けよ!

最近やけに目立つ、ヘタレな男の子のヒーロー成長物語。『パーシ-・ジャクソンとオリンポスの神々』しかり、現在公開中の『ヒックとドラゴン』しかり、そして本作『魔法使いの弟子』も、またしかりだ。アンタがヒーロー?!とツッコミたくなるような、イケてない少年があらん限りの勇気をふり絞り、困難に立ち向かう姿には、完全無欠のヒーローよりも、親しみやすいキャラクターではあるし、観客は共感を覚えやすいかもしれない。

本作の主人公のデイヴ(ジェイ・バルチェル)は、物理オタクで気弱な20歳の青年。それが自分の前に現れた魔法使いバルサザール(ニコラス・ケイジ)から、自分が偉大な魔法使いマーリンの後継者だと告げられ、半ば強引にバルサザールの弟子にさせられる。バルサザールがなぜ彼を弟子にしたのかというのは、千年以上前に封印した史上最悪の魔女、モルガナの復活に備え、彼女と戦わせるため。彼女を倒さなければ世界は滅び、彼女を倒せるのはデイヴのみだという。そんなことを言われても、混乱しまくり拒否するデイヴ。

そんなデイヴではあったが、バルサザールの繰り出す巧みな魔法に心惹かれ、修行を決意。次第に魔法を操る楽しさを覚え、少しずつ魔法を身につける。大学で再会した初恋の人ベッキー(テリーサ・パーマー)とのデートに備え、魔法で自分の研究室を掃除しようとしたのに、大失敗するシーンなど、ディズニーの名作アニメ『ファンタジア』へのオマージュも散りばめられていて、なかなか楽しい。エンドロール後のワンシーンにも工夫が施されているので、ぜひ注目していただきたい。また、映画を彩る音楽も『ファンタジア』で使われた、デュカスの交響詩〈魔法使いの弟子〉のメロディーを彷彿させ、心憎い演出だ。

善(バルサザール&デイヴ)と悪(モルガナ)の対立構造もすっきりしていて、登場人物に複雑な感情を抱くこともなく、クライマックスのデイヴとモルガナの対決シーンまで、無駄なサイドストーリーもなく、シンプルに物語を見せていて、気持ちがいい。起承転結がはっきりしているし、バルサザールの千年前の恋人ヴェロニカ役のモニカ・ベルッチのお色気度も、珍しく低めに設定されているので、小さなお子さんが見ても安心だ。

シンプルなストーリーが展開するなかで、デイヴは恋する喜びを知り、バルサザールの恋の痛みを知り、未熟な魔術を意外な方法で補う能力を見せ、人間としても、魔法使いとしても成長していく。最初は、自分の運命を受け入れられず、動揺していたデイヴが、終盤では死を覚悟して自ら悪に立ち向かう様子は、感慨深い。そして、そのご褒美としてハッピーエンドのお約束が待っている。ベッキーを強く抱き寄せ、キスを交わすシーンは、あらら大人になったねー、と思わず姉のような目線で追ってしまった。

デイヴ役に抜擢されたのは、カナダ出身のジェイ・バルチェル。『ミリオンダラー・ベイビー』では駄目ボクサーのデンジャー役、『ヒックとドラゴン』でも気弱な少年ヒックの声を担当し、スター・ウォーズ・オタクの珍道中を描いた『ファンボーイズ』でもオタク青年の1人を演じるなど、ヘタレやオタクの青年を演じさせれば、もはやハリウッドで右に出る者はいないんじゃないか!?と思うくらいの赤丸急上昇中の若手俳優だ。また、劇場公開はされていないが、昨年の東京国際映画祭で観客賞を受賞した『少年トロツキー』でも、自分はロシアの革命家トロツキーの生まれ変わりと主張する、風変わりな主人公を好演。

失礼ながら彼は、ティーンのアイドルになるような超イケメンという容貌ではなく、素晴らしく正統派な(?)オタク顔であり、これまで演じてきた役柄はまさにハマリ役。スタンダードなスター街道を歩んでいるというより、ヘタレ道、オタク道を爆走中のジェイであるが、着実にキャリアを積んでいく姿は、微笑ましく思えるし、世の中の気弱な男性に勇気を与えてくれるアイコン的存在になるかもしれない。映画のなかでのデイヴは成長し続けたが、ジェイ自身の今後の俳優としての飛躍もぜひ見届けたい!

Text by 富田優子
オススメ度:★★★☆☆
原題:Sorcerer’s Apprentice
製作年:2010年、製作国:アメリカ
監督:ジョン・タートルトーブ
製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ニコラス・ケイジ、ジェイ・バルチェル、モニカ・ベルッチ、アルフレッド・モリーナ、テリーサ・パーマー
公式サイト:http://www.disney.co.jp/deshi/home.jsp

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