『ANPO』改めて今考える安保。

前政権の迷走でにわかに脚光を浴びた日米安保問題だが、それまでは米軍基地がある場所周辺以外の人はほぼ無関心に近く、まるで空気の様に思っていたというところが実情ではないだろうか?最近になって国民の関心も高まりさまざまな特集などが組まれているが、日米安保の功罪両面を捉え、現代における問題点を説明するものがほとんどの様に思う。

この映画は、1960年当時の安保反対一色と言っていい様な時代において、そこに深く関わった芸術家・文化人が自己表現においていかに反戦・反安保を強く訴えたかを当時の雰囲気とともに語るそれぞれの回顧録の様なもので、後世の分析を交えず考え方の偏りなどを気にしない作りといえる内容になっている。

最初から自分なりの結論を言ってしまうが、ここに出てくる芸術家達は他の芸術家と同じく自己表現への強いこだわりがあり、そのこだわりのために反戦・反安保というひとつの時代と心中したかの様な印象を筆者は持った。それが自己表現においては激しい怒りの気持ちをインスピレーションとした力強い作品を生んだ。その一方で、作品にはぬぐい難い暗い雰囲気が漂い、芸術家としてなかなか売れない・表現を変える様に求められる・飯が食えない・周りからの目線も変わってくるという様な苦い経験も味わう事になる。

当時と比べ、現代においては基地問題などさまざまな懸案事項がありはしても日米安保反対、とまで思う人は少ないと思う。60年安保の時代に比べ、日本人はあれだけ反対し闘争を繰り返した安保とは何らかの折り合いをつけるか考えない様にするかして日々の生活をやり過ごしているのではないだろうか?確かに、それはひとつの知恵である事は間違いない。激しすぎる政治活動や自己表現を行う人達は周りからの理解を得づらく、結果不幸になってしまう事も多々あると思う。

だが、例えそうなると分かっていたとしても、ここに出てくる芸術家達の当時の思いや自己表現は揺るぎないだろう。その点はインタビューや当時の時代背景から明確に伝わってくる。そしてその自信があるからか、若干の暗い雰囲気があろうとも彼らは不幸には見えない。ここに出てくる芸術家達は、もしかしたら人から揶揄されたり左翼扱いされたかもしれない。だが、決して間違った考えなどではない反戦というテーマにおいて金銭や周りの評価などの損得感情抜きで自分なりのやり方で懸命に活動した人達だという事は間違いないと思う。その一点において、彼ら芸術家の生き方はひとつの生き方であるし、その時代はやはりひとつの歴史を形成した重要なものなのだと思う。

この映画は、彼らの芸術と同じく取っ付きのよいものではないだろう。しかし、当時を生きていない人には決して分からないだろう60年安保の雰囲気を脚色なくそのまま知る事が出来る、今ではなかなか見られない種類の映画として観ておいて損はないだろう。

Text by:石川達郎
オススメ度:★★★☆☆

製作年:2010年、製作国:アメリカ、日本
監督:リンダ・ホークランド
出演:会田誠、朝倉摂、池田龍雄ほか
公式サイト:http://anpomovie.com/jp/,

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