SHAME-シェイム-

依存症の一言で片づけられない、現代の病

© 2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

事前にセックス依存症の男性が主人公の映画だと聞かされてこの映画を観た人は、ぜひその色眼鏡を外して観て欲しい。いや、観終わった後にはその色眼鏡はもう外れている事だろう。

映画の主人公ブランドン(マイケル・ファスベンダー)はニューヨークで働き、仕事もきっちりこなし、いい家に暮らし、外見もなかなかに魅力的な独身男性。だが、彼はセックス依存症であり、仕事以外の時間はセックスの事だけ。地下鉄で見かけた女性を追いかけたり、アダルトサイトでマスターベーションに耽ったり、行きずりの女性と行為に及んだりする生活を続けていた。そんな暮らしながらもバランスを保っていた日々に妹のシシー(キャリー・マリガン)が恋人にフラれて転がり込んできてからというもの、ブランドンの生活や感情の歯車がだんだん乱されてしまう・・・。

同じ男性として、まず最初にブランドンはよくいる普通の人間であるという事を強く言っておきたい。また、この映画は決してセックスがメインテーマではないという事も強く言っておきたい。この映画は、都会に住む一人の男の例えようもない孤独を表現した物語である。「孤独」これこそが、現代の都会の様々な病の根本原因だと、もうここで言いきってしまおう。

© 2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

都会において独りである事、そこでバランスを取って生きていく事がどれだけ難しい事か。ブランドンを見ていると、同じ独り暮らしの男性である自分にはその事が痛い程伝わる。映画全体に漂う言い様のない孤独感と寂寥感。その原因は人と深い関係を持とうとしない彼にあるのだが、それは都会でうまく生活するため、傷つかないために彼が学んだ知恵でもある。しかし、孤独感・寂寥感と傷つかない知恵というものは、根本的に相容れない。この矛盾する二つを両立させ、心のバランスを取るために彼が耽溺するのが、たまたまセックスだったというだけの事ではないだろうか。耽溺するものは、実はアルコールでも薬でも暴飲暴食でも、何でもよかったのだろう。
ブランドンは真面目な人間なのだという事はその発言からも分かるのだが、彼には誰にも見せないSHAMEの一面があり、そのSHAMEの部分を持つ事によっていつ崩れるか分からない脆い心のバランスを保っている。そこが、心のバランスが保てないシシーとの違いだった様に思う。

それにしても、ブランドンの日々の生活はなんと虚しいのであろうか。この男からセックスを取ったら何も残らない退屈な日々があるだけだ。冒頭の地下鉄内で女性を見つめ追いかけるブランドン、妹が唄う退屈なバラードのニューヨークニューヨーク、夜のジョギング、デートでの会話のためだけの会話。そんな長回しのシーンの様に、すべてが無意味で虚しいだけだ。そう、ブランドンの人生の様に。 孤独を忘れるためにセックスをし、そのセックスの最中にやはり孤独を感じて虚しくなり、その虚しさを忘れるためにまたセックスをしてしまう。こんな繰り返しの先にいったい何があるというのか?でも、それがなければ自分は崩れてしまうだろう事が彼には分かっている。だから依存症なのだろう。

ブランドンの姿に、誰しもが持つ隠された部分を暴露された様で打ちのめされてしまい、映画が終わった後しばし動けなかった。心のバランスを維持するために、何かに依存してしまう。そんな現代の病が映し出された映画だったと思う。

おススメ度:★★★★☆
Text by 石川達郎

キャスト:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン、ジェームズ・バッジ・デール、ニコール・ベハーリー
監督:スティーヴ・マックィーン
脚本:スティーヴ・マックィーン、アビ・モーガン
撮影:ショーン・ボビット
編集:ジョー・ウォーカー
美術:ジュディ・ベッカー
衣装:デビッド・C・ロビンソン
音楽:ハリー・エスコット

原題 :Shame
製作国 :イギリス
配給 :ギャガ
上映時間:90分
公式サイト:http://shame.gaga.ne.jp/
2012年3月10日 シネクイント、シネマスクエアとうきゅう他全国順次ロードショー

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