『へんげ』大畑創監督インタビュー:自分が観たいと思う、面白い映画をつくりたい
その大畑監督の新作『へんげ』は、54分という短い尺ながら、映画ファンの期待を裏切らない、密度の濃い作品。体に異変をきたす外科医の夫(相澤一成)とその変化に戸惑う妻(森田亜紀)の物語だが、 夫の変化、そして二人の愛の、あまりにも衝撃的な結末を見届けた後には、ある種の幸福感が訪れたほど。そんな作品を完成させた大畑監督にお話を伺った。
――本作は大畑監督が自分がつくりたいようにつくった映画なんだなと感じました。 例えば、夫の体の変化は環境の悪化によることが原因で、環境破壊は悪である!と訴えるような、教訓を持たせた映画ではなく、ご自身の自由で柔らかい発想から生まれた映画だと感じました。
大畑創監督(以下、大畑):ありがとうございます。本当に余計なことは考えずに、自分が観たいと思う映画をつくったので・・・。
――夫の体が次第に変化していくという、本作の独創的なアイディアはどこから湧いたのでしょう?
大畑:まず、以前から変身ものの映画をつくりたいと思ってました。変身ものって画として見て、とても面白いものだと思うのです。肉体的にも特殊メイクを使って、変わっていくさまをお客さんに見せたり、変わっていく様子に怯える登場人物の心情を見ることができて、映画にしたら面白い題材だなと前々から思っていました。なので、変身ものを題材にした映画をつくろうと決めたんです。
――監督が本作の製作にあたり、まず、あの衝撃の結末ありき、で構想を練られたというように伺いましたが。
大畑:そうなんです。変身ものということで考え出して、新宿の高層ビル群を観ているうちに、結末のシーンがパッと思い浮かんだんですよ。そこから、その結末に至るような夫婦ってどんな関係なんだろう、そういう状況に陥る環境ってどんなだろうって話を膨らませていったんです。そうしたら自然と、あのような話になりました。
――撮影中、監督が苦労した点やこだわったシーンはどこでしたか?
大畑:もちろん、こだわったのは結末です。最後の結末が最大の見せ場ですから。苦労した点は、 夫が変身の過程でだんだんおかしくなり、暴れまくるシーンが頻繁に出てきますが、そういうシーンは、夫役の相澤一成さんと一緒に考えました。どんな動きが気持ち悪くて人間離れしているかというのを考えるのが、面白くもあり、大変でもありました。広い部屋を借り切って、相澤さんと一緒に、いかに気持ち悪い動きを作り出すか試行錯誤を重ねて、二人で秘かに研究しました。もし、その様子をメーキング映像として撮っていたら、冷静に見て恥ずかしいかも(笑) 。
――そのように、役者さんとアイディアを出しながら役作りをされたという点ですが、本作のキモでもある、その気持ち悪い動きで、何か参考にした本や映画はありますか?
大畑:『エミリー・ローズ』(05)という、少女が悪魔に取り憑かれて暴れまくる映画ですね。少女の動きが人間ではあり得ないような動きだったので、それを参考にしてみました。『エミリー・ローズ』のようなノリの気持ち悪さを目指したんですが、なかなか難しかったです。でも、相澤さんはよく頑張ってくれました。
――この夫婦が人間の言葉ではないような言葉も交わしますが、どういう意味を持たせたのでしょうか?
大畑:僕なりに意味はありますが、それをお客さんが知ったからといって面白くなるわけではないと思います。ただ、二人の思いが最終的に結実したというラストを感じてもらえればいいかな、と。 それを観る人が自由に感じとっていただければ、と思っています。
――大畑監督ご自身についてお伺いします。まず、監督が映画をつくろうと思ったきっかけは何でしょうか?
大畑:映画美学校に入学したのが26歳のときです。それまでは映画をつくったことがなく、テレビ局で映像の編集のプロダクション会社で働いていました。会社を辞めて、やることがないなーと思っていたのですが、映画は昔から好きだから・・・と考えたのがきっかけで映画美学校に入りました。
――大畑監督は今後も映画を作る意欲はおありだと思いますが、監督にとって映画をつくることはどういうことなのでしょうか?
大畑:あまりそういうことを考える人間ではないけれど、面白い映画を自分が観たいから・・・ということが根底にあるのかな。自分が見たい映画をつくりたいという思いが強いのだと思います。
――今後の新作のプランがあればお聞かせ下さい。
大畑:『大拳銃』も『へんげ』もカタルシスが用意されていて、ある種、観る人が癒される映画だと思います。でもそれも飽きたので、癒しもなく、絶望的な気分になるというか、ただただ終わってしまうような・・・。終わりを迎える傾向の映画を作ってみたいな・・・と思っています。次は長編でチャレンジしたいです。
――これから映画をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
大畑:娯楽映画はいろいろあると思いますが、大それた娯楽映画は最近少ないと思っていました。誰にでも楽しんでもらえる娯楽映画をつくったつもりです。あらすじ的に怖そうとか気持ち悪そうとか思うかもしれないけれど、老若男女問わず、ぜひたくさんの方に観にきていただきたいと思っています。
(後記)
大畑監督が「こだわったシーン」としてラストシーンを挙げてくれたが、編集中は「このシーン、すげーなー」と感極まって泣いてしまったという。ネタばれ厳禁の映画のため、詳しく述べることはできないのだが、新宿の高層ビル群をバックにした、あのラストにはあらゆる意味で覆された。おぞましくも迫力のある映像は、ぜひ劇場のスクリーンで堪能すべき映画だ。
また、大畑監督は映画や自身のことを熱弁をふるうというタイプではないが、一つ一つ、丁寧に発する言葉には力があり、 映画に対するこだわりを感じさせてくれた。だから「自分が観たい映画をつくりたい」という思いをこれからも持ち続けて、今後も観客を楽しませる作品を発表してほしいと思う。
取材:富田優子
<プロフィール>
大畑創(おおはた・はじめ)
1979年2月15日、大阪府生まれ。
映画美学校修了制作として監督した『大拳銃』(08)が各地映画祭で上映され、ゆうばりファンタスティック映画祭とぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞をW受賞。都内映画館にて劇場公開を果たす。その後、『怪談新耳袋 百物語』(10、DVD)の一篇『庭の木』を監督する。
▼作品情報▼
監督・脚本・編集:大畑創
出演:森田亜紀、相澤一成、信國輝彦
音楽:長嶌寛幸 特技監督:田口清隆 撮影:四宮秀俊 特殊メイク:宇田川祐
配給:キングレコード 宣伝:ブラウニー
2011年/日本/54分/カラー
(c)2012 OMNI PRODUCTION
公式サイト:http://hen-ge.com/
2012年3月10日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次公開!