「鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言」千年先まで繋ぐ仕事とは?伝統文化の継承について考える
宮大工(みやだいく)とは、神社仏閣の建築や修復に携わる大工のことである。一流の棟梁ともなると、歴史や建築に精通しているだけでなく、自然への洞察と、過去と未来を繋ぐ想像力が要求される。千年先まで伝える仕事とは、どういうものなのだろうか。
本作は西岡常一という、かつて鬼と畏れられた宮大工の晩年を追ったドキュメンタリーである。西岡氏は法隆寺の昭和大修理や薬師寺の伽羅復興に一生を捧げ、飛鳥時代から受け継がれてきた技法を後世に伝えた人物。インタビューや作業現場で語られた彼の言葉から、その仕事の神髄に迫っていく。
「木は鉄を凌駕する」という西岡氏の言葉はあまりにも印象的だ。日本の風土に合う素材を選び、その素材に合った道具と技術を用いる。何よりも素材を生かすことを第一に考え、自然と調和させることが、長年の風雪に耐えうる建築を可能にするのだという。
仕事の効率化やコストダウンが重視される昨今、宮大工の世界も例外ではない。そんな中、頑に古来伝承のやり方を主張してきた西岡氏。今は彼の後継者たちがその精神を継いでいるが、一人でも多くの日本人がその価値を理解する必要があるだろう。文化を継承するということは、日本人のDNAを受け継いでいくということ。それはけっして一部の人たちのものではないのだ。
自然との調和という観点を無視し、進化することばかりを追求した結果、いったい何が残るのだろうと考えさせられる。今さえ良ければいいという考えの中に文化の成熟はない。匠の言葉は、現代文化の中で歪みつつある日本人の価値観を正してくれるような響きに満ちている。
2012年2月4日(土) ユーロスペース・シネマサンシャイン大和郡山(奈良県)にてモーニングショー!
オススメ度:★★★☆☆
文・鈴木こより
監督:山崎佑次 ナレーター:石橋蓮司
出演:西岡常一・西岡太郎・石井浩司・速水浩・安田英胤(薬師寺長老)
制作:2011/日本/カラー/88分
配給:太秦
公式サイト: http://www.oninikike.com