「ラビット・ホール」ニコール・キッドマン~公式インタビュー「自分の内面の奥深くにある、触ってほしくないような恐ろしい場所に触れたの」
最も愛する者を失ったらどうするのか?その苦しみは乗り越えられるのか?――そんな究極ともいえるテーマに向き合う人々の姿を丁寧に描き出した映画『ラビット・ホール』が公開される。幼い一人息子を交通事故で亡くした母親が主人公の同作。主演とともにプロデューサーも務めたハリウッドのトップ女優、ニコール・キッドマンのオフィシャル・インタビューをお届けする。
Q:まず、あなたが映画をプロデュースしようと思うのはどのような理由からですか?
ニコール:私はいつも、極限の題材を扱った映画に興味を抱くの。基本的に、私が作るほとんどの映画のテーマは、さまざまな形で現れる愛。だから私は人が愛を渇望するとき、人が愛を失うときの、その人々に対して興味を覚えるわ。子どもを失うということは、自分が行きつく中でもっとも恐ろしい場所。自分をクリエイティブに向かわせる場所とは、つまり自分が恐れを抱く場所でもあるのよ。 Q:本作はデヴィッド・リンゼー=アベアーの舞台劇「Rabbit Hole」の映画化です。映画化が決して容易ではないこの芝居への挑戦は、どのように決断したのでしょうか? ニコール:まず、この作品のテーマを信じていたわ。それに私は作ることが難しい作品を支援するのが好きなの。考えられないような重い悲劇にさらされながら、異なるリアクションをするこの夫婦に心を鷲づかみにされたわ。ベッカとハウイーの夫婦は、それぞれのやり方で悲しみに暮れながらも、一緒に生活している。それがとても面白いと感じたし、私自身がベッカを演じてみたいと思った。ブロードウェイの舞台では、シンシア・ニクソン(「セックス・アンド・ザ・シティ」)が鮮やかにベッカに命を吹き込んでいたわよね。そこで私はこのキャラクターを映画ファンに紹介したいという考えに夢中になったの。 Q:映画化においては、原作者のデヴィッド・リンゼー=アベアー自らが脚本を書き上げましたね。そして監督にジョン・キャメロン・ミッチェルを選んだのはなぜでしょうか? ニコール:デヴィッドには天性の才能があると思うわ。映画的なセリフがどのようなものかを本当に分かっていたし、キャラクターたちのこと、彼らが何を体験してきたかを完全に理解していた。彼と仕事をするのは本当に素晴らしい経験だったわ。でも、私たちがジョンを監督に「選んだ」と言えるのかどうか……。私が思うに、ジョンは自分自身でこの作品を見出し、私たちはそんな彼を見つけたのよ。そう表現する方がずっとしっくりくるわ。ジョンは粋な人で、とてもオープン。役者にとってオープンな監督と仕事をすることは素晴らしいことなのよ。彼は同時に俳優でもあるから、演技をする上で欠かせないものも理解しているわ。結局のところ、動機が純粋ならば「この話を作りたい」と人は自然に集まってくる。そこで知り合った者同士、企画を一緒に進める。それだけの話よ。 Q:あなたが演じるベッカの夫役ハウイーにアーロン・エッカートを起用した理由を教えてください ニコール:アーロン・エッカートは、常に夫ハウイー役の候補だった。というより、私たちにとって彼が一番の選択肢だったわ。彼が脚本を気に入ってくれたと聞いて「やった! もしかするとアーロンはイエスと言うかもしれない」と思い、私が彼に電話をしたの。実は、私は電話で話すのが得意ではなくて、人間的にとてもシャイなの。誰かに何かを売れるような人ではなくて……。だから電話をかけるまで、「彼に電話をするのは得策だろうか?」と考えてしまったほどよ。でもアーロンには今までも何度か会っていたし、彼をとても高く評価していること、そしてスクリーンですてきな夫を演じるのに素晴らしい男性だと感じていることを、ただ伝えたくて電話をしたのよ。 Q:主人公の息子の命を奪った車を運転していた高校生、ジェイソンを演じたマイルズ・テラーについてはいかがでしたか? ニコール:彼こそはまさに才能の発見だったわ。マイルズの素敵な特徴のひとつは、顔が赤くなることなの。スクリーンで見て分かるのよ。素晴らしい! 俳優が顔色を変えられるというのは、名演技の要素よ。そういう奇跡的なシーンができると、感情がとてもリアルになるの。 Q:主人公のベッカが置かれている子供を失ってからの困難な状況をどのようにとらえましたか? ニコール:ベッカの禁欲主義的なところに身を置くことにしたわ。ベッカはひどい苦痛の中にいて、触れればすべてが壊れてしまうかのよう。そう思いながら、ずっと演じていたの。子供を失くした女性なら誰でもそういう感情をもつと思う。息子を失ったことですっかり弱ってダメになってしまった中で、毎朝目を覚まさなければならない。ベッカにとって唯一できるのは、ただ前に向かって進み続けること。彼女は必死になって人生を選ぼうとしている。だから絵画を取り外したり、家を片付けたりしながらこう言うの。「ただ悲しみに押しつぶされて死ぬなんて、私にはできない。なら、どうやって生きていけばいい? その方法を見つけなきゃ」ってね。 Q:実際の役作りについて教えてください。 ニコール:自分の内面の奥深くにある、触ってほしくないような恐ろしい場所に触れてしまったわ。精神的には決してたどり着きたくなかったけど、なぜかたどり着いてしまった。これが私の役作りなんだと思う。そこに行き着くまでは大変だけれど、いったんそこに行ってしまうと、完全にそのキャラクターを吸収してしまうの。 Q:この映画は観客に何をもたらすと思いますか? ニコール:この映画の登場人物に、私たちは心を開くことができると思う。それは彼らが皆、正直で本物だからよ。家族とはそういうものだし、映画を観た人たちは登場人物と一緒に、彼らの体験を分かち合えると思っているわ。
『ラビット・ホール』 (原題:Rabbit Hole)
郊外に暮らすベッカとハウイーの夫婦は、8ヵ月前に4歳の一人息子を交通事故で失った。ベッカは家中に残る息子の面影に心をかき乱され、他人との関わりを拒絶。母親や妹にもいら立ちをぶつける。夫のハウイーは幸せな日々を少しでも取り戻そうと務めるが、ベッカとの溝は深まっていく。そんな折、ベッカは偶然、息子の命を奪った車を運転していた高校生ジェイソンを見かけ、やがて交流を持つように……。
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
脚本・同名戯曲原作者:デヴィッド・リンゼー=アベアー
出演:ニコール・キッドマン、アーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、タミー・ブランチャード、マイルズ・テラー
2010年/アメリカ/92分
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11月5日(土)TOHOシネマズ シャンテ&ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー
公式サイト http://www.rabbit-hole.jp/