マイブリッジの糸
第35回モントリオール世界映画祭「短編映画コンペティション」部門ノミネート、第24回東京国際映画祭「映画人の視点」部門上映作品
「頭山」「カフカ 田舎医者」のアニメーション作家・山村浩二が、新作『マイブリッジの糸』で表現したのは“時間”だ。
「どんどん成長していく娘の姿に、時の流れを痛感していた。とりもどせない時間の中、芸術に何ができるのかと考えた」と、その理由を語る。またアニメーターとして常に時間と闘い、時間の概念について考察しなければならない環境にあったという。
作品は映画の発明に大きなインスピレーションを与えた写真家エドワード・マイブリッジの人生と、現代東京で我が子の成長と巣立ちに気づく母親の、ふたつの世界からなる短編アニメ。
マイブリッジが馬の連続撮影するために考案したシステム=馬の蹄が糸を切断するイメージは、作品の中で時間のつながりと切断を象徴している。セリフは一切ないが、それらがマイブリッジの成功と挫折の人生を巧みに描き出す。やがてマイブリッジの時が止まってしまう一方で、現代東京に生きる母親は、どんどん成長していく娘と流れゆく時の早さに孤独感を募らせていた。
マイブリッジと東京の母親の想いが時空を超えて重なったとき、時の流れに変化が起こる。
独特なタッチで描かれる圧倒的な映像詩とともに流れる音楽は、バッハの「蟹のカノン」。実は映画のキーともいえるこの曲は、音階が回文になっている。つまり、楽譜を最初から読んでも、最後から読んでも同じ曲になるのだ。この特徴的な音の構造とともに、物語の時間は紡がれていく。
12分38秒という短いアニメーションの中に、瞬きをするのも惜しいほど濃密な時間を体験できる。独創的な発想とエッセンスを盛り込んだ芸術性の高い作品ゆえ、何度観ても新たな驚きと味わいを与えてくれるだろう。
Text by 鈴木こより
オススメ度:★★★★★
監督・脚本・デザイン・アニメーション:山村浩二
J.S.バッハ「蟹のカノン」(1747) 編曲:ノルマン・ロジェ
2011年/日/12分38秒/35ミリ/カナダ・日本/字幕:英語・日本語
製作:カナダ国立映画制作庁(NFB)
共同製作:NHK、ポリゴン・ピクチャアズ
配給:ポリゴン・ピクチュアズ、ヤマムラアニメーション
(c)2011 National Film Board of Canada / NHK / Polygon Pictures
『マイブリッジの糸』公式サイト:http://www.muybridges-strings.com
▼公開情報▼
9月17日(土)より恵比寿・東京都写真美術館ホールにて3週間限定ロードショー。
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また10月22日(土)から開催される第24回東京国際映画祭「映画人の視点」部門でも上映が決定。山村浩二監督がゲスト登壇するイベントが予定されている。
東京国際映画祭公式サイト:http://www.tiff-jp.net/