ドニー・イェンのアクションへの要求はミリ単位!「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」力石大佐役・木幡竜さんインタビュー

ブルース・リーの正統な継承者、ドニー・イェンによるカンフー・アクション映画『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』がようやく公開される。尖閣諸島問題で公開が危ぶまれていた話題作だ。主人公チェン・ジェンは、『ドラゴン怒りの鉄拳』(71)でブルース・リーが演じた架空のマーシャル・アーツ・ヒーローであり、リーの死後も数多くの作品で演じられている。ドニーもTVシリーズ「精武門」でこのヒーローを演じており、本作はそのドラマシリーズから生まれた映画である。
今回お話を伺った木幡竜さんは、チェン・ジェンの最後の対決相手である力石大佐を演じ、プロボクサーとして鍛え上げた肉体を武器に、ドニーと見事なファイトシーンを披露している。インタビューでは共演者の意外な素顔や撮影秘話を、爆笑エピソードを交えながら語ってくれた。

ーーーどのような経緯で出演が決まったのでしょうか?

(木幡さん<以下、木幡>)『南京!南京!』(09)という映画への出演で、中国の映画監督の間で評価をいただき、認知されるようになったんです。そんな時にアンドリュー・ラウ監督がアクションのできる日本人俳優を探していて、もともとプロボクサーだった僕なら間違いはないだろうということでオファーがきました。「君にぴったりの役だろう?」と監督からプロット(企画書)を見せていただき、その場で(出演を)決めました。

ーーードニー・イェンは実際どんな方でしたか?

ドニーと闘う木幡さん(右)

(木幡)一言でいうと天然で、いい兄(あん)ちゃんです。上半身裸で闘うシーンなんかも全て本人の希望ですから(笑)。本来、正装である白の詰襟を脱ぐのはタブーなんですが、鍛えた体を見せたかったのかもしれないです。でもそのシーンのために、彼は2週間何も食べなかったんです。撮り終わった瞬間、ものすごい勢いでラーメンにがっついてました(爆笑)。僕と殴り合った黒い階段に座りこんで、食べた後も「ハングリー!」と言ってました。あの光景は忘れられません(笑)。
でもアクションへのこだわりは凄くて、彼にはいつもミリ単位の(正確な動きを)要求されていました。テイクもたくさん撮ったし、足がずっとプルプルしてましたね。筋トレとアクション練習がとてもハードで一日五食でもみるみる痩せてしまうので、衣装の下には必ず襦袢を着ていました。

ーーーアンソニー・ウォンの存在感も圧倒的でしたね

(木幡)芝居にたいしてとても真面目な方です。撮影中は敵同士だったのでほとんど話をしてませんが、宣伝の時にちょうど尖閣諸島の問題があって、彼に助けていただきました。「俳優として来てるんだから、そのことについて一切コメントする必要はないよ」と言ってくれてたんですが、実際にそういう質問があがった時、彼は僕が答えるよりも先に「今すぐこの部屋から出ていけ!」と記者に一喝してくれたんです。でも基本的には何を訊かれても笑いに変えてしまう大らかな人なんですよ。

ーーー反日の描写もありますが、撮影時の雰囲気はどうでしたか?

(木幡)撮影中はみんな仲良くやってました。中国映画で日本人が敵役として描かれるのはお決まりというか、ひとつのパターンなんです。だからといって日本人が憎いかといえばそんなことはないんです。

ーーー役作りについて、監督からリクエストはありましたか?

(木幡)監督には「悪役を演じないでくれ。大義名分があることを意識してやってほしい」と繰り返し言われていました。生まれた時から「悪」みたいなキャラクターは、今演じても誰も感情移入できないと思います。昔のただ日本人を悪役として描く映画とは違い、(本作は)両者の筋を立てていると思います。

ーーー中国語のセリフを披露していますが、覚えるのは大変だったのでは?

(木幡)中国語のセリフがあったのは本作が初めてで、しかも結構な量だったので、撮影の時以外はほとんど語学学校に通っていました。中国に住んで2年になりますが、今では日常会話なら差しさわりがない程度に話せます。中国では撮影現場でセリフが変わるのはしょっちゅうなんで大変ですね。

ーーー最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします

(木幡)日本では撮れないようなアクションシーンがたくさんあると思います。ドニーとの距離感やピリピリした空気なんかも感じていただけたら嬉しいです。とはいえ、娯楽映画なので、構えずに楽しんでもられればと思います。

9月17日(土)より新宿武蔵野館、立川シネマシティにてロードショー
シネマート心斎橋、他全国順次公開

(取材後記)力石大佐のイメージもあり「気難しい方だったらどうしよう」と内心思っていたが、実際の木幡さんはとても気さくな方だった。金髪にしたのは現在撮影中の映画のためなのだとか。貴重なエピソードをユーモラスに語ってくださり、インタビューは終始和やかな雰囲気であったが、「ドニーの最後の敵を演じるにあたって、どのような気持ちでしたか?」という質問をした時は、笑顔だった表情がわずかに引き締まったようにみえた。いわば“ラスボス”という役どころ。大きなプレッシャーがあったに違いなく、そういう答えが返ってくることを半ば期待していた。ところが返ってきた答えは、「平常心で臨みました。とにかく役に集中するようにしました」という淡々としたものだった。う〜ん、さすがは元プロボクサー。幾度となく命がけの勝負をしてきたのだろう。木幡さんが一瞬だけ見せたその表情に、私は勝負師の目を見たのかもしれない。これからも数多くの名勝負を演じて、観る者を魅了し続けてほしい。


▼木幡竜(こはたりゅう)さんプロフィール
1976年神奈川県生まれ。2003年に俳優デビュー。映画やドラマを中心に、舞台やCM等幅広く活躍する。主な出演作品は、NHKドラマ「純情きらり」(06)、TBSドラマ「セーラー服と機関銃」(06)、映画『ゴジラ FINAL WARS』(04)、『DEATH NOTE デスノート』(06)、『春の居場所』(06)、『子猫の涙』(07)、『陰日向に咲く』 (08)、『GOEMON』(09)。その後、南京大虐殺を描いたことで賛否両論を巻き起こした映画『南京!南京!』(09)で中国に呼ばれ重要な役どころを演じ、その演技力が高く評価される。本作レジェンドオブフィストの出演を皮切りに、中華圏のアクション大作映画への出演が続いている。以降中国での公開待機作、ゴードン・チャン監督の時代劇アクション作「四大名捕」では自身初めての中国人役に挑戦し、現在、中国有名監督の傅華陽と「五星上将」をタイと雲南省で撮影中。

▼『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』
2010年ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門正式出品作品
監督:アンドリュー・ラウ
出演:ドニー・イェン、スー・チー、アンソニー・ウォン、ホアン・ボー、ショーン・ユー、倉田保昭、木幡竜、AKIRA(EXILE)
原題:精武風雲・陳真/2010/中国/カラー/105分/シネスコ/ドルビーSDR/字幕翻訳:寺尾次郎/R-15
提供・配給:ツイン/配給協力:太秦
コピーライト:(c) Media Asia Films(BVI)Ltd. Beijing Enlight Pictures Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:http://www.ikarinotekken.com/

インタビュー取材:鈴木こより

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