わたしたちの夏

映画の息づかいを感じて、幸福な映像体験を

本作のタイトルの“わたしたち”とは、雑貨店で働きながら写真を撮っているアラフォー世代の女性・千景(吉野晶)と、かつて彼女と同棲していた庄平(鈴木常吉)の娘、大学生サキ(小原早織)を指している。2009年の夏、千景とサキは、ぎこちない再会を果たし、それがきっかけで千景と庄平も再会し、千景はささやかな幸せを噛みしめる。しかし、悲劇が起こり、1年後の2010年夏、“わたしたちの夏”がはじまる・・・。

本作は、千景とサキの和解の物語である。千景と庄平の復縁は、サキにとって手放しで喜べるものではない。その一方で、サキは千景のカッコよさに憧れていて、複雑な感情を抱えている。千景もサキを気に懸けているが、かつて庄平とサキと“家族”になれなかったことが心に引っかかっている。まっさらな気持ちで、互いと接することができないのがもどかしい。そんな2人がどのように歩み寄るのか。

ストーリーとしては、さほど斬新なものではない。しかし、本作の最大の見どころは、情感豊かな映像だ。つややかであり、瑞々しくもあり、知的で老成していて・・・。登場人物のセリフはさほど多くないし、個々のバックグラウンドもさほど細かく語られているわけではない。しかし、観る者の心に語りかける力が、この映画には、ある。映画の息づかいを感じることができるのだ。

千景とサキの夏の日々が淡々と映し出されるが、彼女たちが過ごす夏は、とても静かで穏やかだ。静謐さのなかに、千景の首筋を流れる汗や、匂い立つような花や草木が、呼吸をしている。それは、何と心が満たされるような出会いであったことか。そうか、これは“生きている”映画なのだ。それを感じたとき、この映画は考えながら観るのではなく、頭でっかちにならずにありのままを受けとめて、素直に感じればいいのだ、と思った。そう、これはまさに、映画に宿る命を体感すべき映画なのだ。

千景が撮影したであろう写真や、この世に存在していないような人物が、ところどころ映像に差し込まれる。また、本作の福間健二監督は、詩人でもある。そのため、詩の引用も多い。正直なところ、とても難解な映画ではある。だが、それらの意味をいちいち立ち止まって、細かく考えながら観たら、この体感映画に乗り遅れてしまうだろう。筆者には詩ゴコロはなく、専門的な知識は持ち合わせていない。なので、全くの見当違いなのかもしれないが、詩というものは、一行ごとに意味を考えるのではなく、詩全体から、その作品の匂いを、手触りを、世界観を感じるものではないだろうか。本作もそれと同じなのではないだろうか。

恐らくこれは、福間監督の詩人ゆえの独特の表現方法なのだろう。しかし、それは映像の持つ表現方法の可能性を追求したとも言えると思う。千景とサキの心の距離を、それぞれが抱える心の空洞を、命が宿る映像で満たし、和解へ導く。それを見届けることは、稀有な映像体験になるのは間違いない。何とも言えぬ幸福感が訪れる。

オススメ度:★★★☆☆
Text by 富田優子

製作国:日本、製作年:2011年
監督・脚本:福間健二
出演:吉野晶、小原早織、鈴木常吉、千石英世
製作・配給:tough mama
公式サイト:http://tough-mama.seesaa.net/
(C)2011 tough mama
8月27日よりポレポレ東中野にてレイトショー

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