「小川の辺」こんな時代だからこそ…求められる藤沢周平の爽快時代劇

原作は、山形県鶴岡市出身の小説家、藤沢周平の同名短編小説。海坂藩藩士の戊井朔之助(東山紀之)は、妹・田鶴(菊地凜子)の夫である佐久間(片岡愛之助)を討てという藩命を受ける。悩んだ末に決意した朔之助は、奉公人の新蔵(勝地涼)とともに妹夫婦の行方を捜し、ついに見つけ出すのだが…。

藤沢周平による時代小説の映像作品は数多くある。テレビドラマはもとより、映画化されたのは『たそがれ清兵衛』(02)、『隠し剣鬼の爪』(04)、『蝉しぐれ』(05)、『武士の一分』(06)、『山桜』(08)、昨年公開が『花のあと』(10)『必死剣鳥刺し』(10)。とは言え、大河ドラマのような、有名な歴史上の人物が登場する物語ではない。藤沢作品の主人公の多くは、ある地方の架空の藩「海坂藩」(庄内藩がモデルと言われる)に生きる下級武士だ。不条理な運命に翻弄されながらも、自分の信念に従って生き方を貫こうとする。

この点は、本作にしても同様である。藩政を真正面から批判したために藩を追われることになった佐久間。義のためにやったことと知りながら、藩命により佐久間を討たねばならない朔之助。武士の妻として、実の兄でも手向かってくるであろう気丈な田鶴。そして田鶴にひそかに思いを寄せる新蔵。彼らの様々な思いが交錯するのが、決闘場所となる小川の辺(ほとり)だ。佐久間と朔之助が自分の運命を達観し、剣の達人同士の容赦ないせめぎ合いを見せるのに対し、武士ではない新蔵と田鶴には迷いが見えるのが面白い。そして背景には、兄弟同然で育った朔之助と田鶴と新蔵の、主従、兄妹、そして魅かれ合う男女の関係が浮かび上がってくる…。

小説「小川の辺」は、文庫本にしても40ページの短編。これをどのように映画化するかは製作者側の手腕の見せ所だが、それぞれの人間の立場とその下に押し隠した感情を丁寧に描きながら、最後は爽やかな幕切れを見せてくれた。特に、主演の東山紀之の品のある佇まい、抑制のきいた演技はとても好感が持てる。

なんでも物事が簡単になってしまった今の時代。嫌なことはしなければいい、付き合いたくなければ切り捨ててしまえばいい。でも、物事が自分の自由にならなかった時代、それでも凛として生きた名もなき庶民がいた。市井に生きる人間の気高さと誇り。日本人でよかった…。そう思えるからこそ、藤沢作品は読み継がれ、映像化され続けるのではないだろうか。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★★☆

製作国:日 製作年:2011年
原作:藤沢周平
監督:篠原哲雄
出演:東山紀之、菊地凛子、勝地涼、片岡愛之助

公式サイト http://www.ogawa-no-hotori.com/index.html

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