「陰謀の代償 N.Y.コンフィデンシャル」 9・11直後のニューヨークを舞台に、豪華キャストが熱演! 社会派ポリス・サスペンス
「男はそれでも生きていくんだよ。クソみたいな問題抱えてな」
アル・パチーノ演じる初老の刑事が、孤独な少年にささやく。
ミルクと呼ばれたその少年は、クィーンズの低所得者向け公営住宅の出身で、ある殺人事件に関わっていた。大人になったミルクは亡き父と同じ刑事になるが、やがて何者かによって脅迫を受けるようになる。同じ時期、地元紙の女性記者も何者かのリークによって、その殺人事件が市警によって隠ぺいされていたことを知る。真相を暴こうと嗅ぎまわる女性記者の存在は、過去を封印したいミルクにとって脅威となっていく。
2002年のN.Y.クィーンズ。舞台となる低所得者向けの公営住宅は、多くの黒人や移民が住みつき、犯罪や麻薬の温床として悪名高い。さらに9・11以降は社会不安が拡がり、市警は治安と信用回復に躍起になっていた。クィーンズ出身のディート・モンティエル監督は、その頃のN.Y.の雰囲気をリアルに描きたかったという。多様な人種が入り乱れる地元を活写した本作は、今年1月のサンダンス映画祭で大きな反響を呼んだ。
警察の内部腐敗や凶悪犯罪を扱ったサスペンスは数多く公開されているが、それらの多くは派手なアクションとともに黒幕に迫っていくといもの。しかし本作は、弱い者が自分よりさらに弱い者を守るために起きてしまった事件を描いている。ゆえに、誰が善人で悪人なのか、というアプローチではなく、事件の背景や登場人物の正義に焦点を当てているという印象だ。とはいえ、最後まで先が読めないスリリングな展開なのであるが。
主演のミルクを演じるのは、モンティエル作品全てに出演しているチャニング・テイタム。脇を固めるキャストも豪華で実力派。謎めいたベテラン刑事をアル・パチーノ、圧力に屈しない女性記者をジュリエット・ビノシュ、ミルクの上司をレイ・リオッタが演じ、それぞれの立場で「正義とは何か」を問う。少年時代のミルクを演じたジェイク・チェリーの絶望の表情も忘れられない。
7月9日(土)より、銀座シネパトスほか全国順次公開
おススメ度:★★★★☆
Text by 鈴木こより
原題:The Son Of No One
監督・脚本:ディート・モンティエル
出演:チャニング・テイタム(『G.I. ジョー』)、ケイティ・ホームズ(『バットマン ビギンズ』)、レイ・リオッタ(『グッドフェローズ』)、ジュリエット・ビノシュ(『トスカーナの贋作』)、アル・パチーノ(『ゴッドファーザー』)、ジェイク・チェリー(『ナイトミュージアム』)
制作:2010/アメリカ/95分
配給:日活
宣伝:アニープラネット