『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』

1作目よりパワーアップした続編をご堪能あれ!

本年1月に公開された、スウェーデン発のミステリー『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』。40年前の実業家一族の娘の失踪事件の謎に迫り、緊迫感に溢れたミステリーとして見応えある作品だった。何よりヒロインの天才ハッカー、リスベット・サランデル(ノオミ・ラパス)の、強烈な存在感には惹きつけられる。背中に大きく彫られたドラゴンのタトゥーに鼻ピアスという、一見、眉をひそめてしまいそうな外見と、他人との接触を極力拒もうとする彼女の孤独や心の傷との対比も切なく、ミステリーの枠を越えて、人間の繊細な心理を描いたドラマとしても非常に優れていたと思う。この『ミレニアム』が3部作と知って、残りの2作が公開されるのかどうか楽しみにしていたのだが、その甲斐があった。このたび、その続編となる2作が連続公開!それが『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』である。


第1作では、リスベットと雑誌「ミレニアム」の敏腕ジャーナリスト、ミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)が実業家一族の事件を解決し、一応の完結を見ている。だが時折、瞳に憎悪の炎をたぎらせた少女が、車中の男に火を投げ込むシーンが挿入されていたのを、覚えていらっしゃるだろうか。あの少女は誰なのか?火だるまの男と少女の関係は?なぜ彼女はあんな残虐な行動を起こしたのか?・・・などと疑問に思われていた方も多いだろう。そんな方はぜひ続編の『2』『3』を見ていただきたい。結論から言ってしまうと、全ての謎が解き明かされるのだが、真実に辿り着くまで、息つく暇がないくらいの怒涛の展開が待っている。『1』での事件は、実業家の私的な調査依頼から始まったことだが、『2』『3』と物語が進むにつれ、スケール感がアップし、ついにはリスベットの出生の秘密が、国家のトップシークレットを揺るがす事態にまで発展してしまうのだから。あらゆる面において、『1』よりもパワーアップしているのは素晴らしい。続編ものは前作よりクオリティが劣る、尻すぼみ感が否めない作品も数多くあるが、本シリーズはその轍を踏んでいないのは、ファンにとって非常に喜ばしいことだ。

『ミレニアム』シリーズが誕生したスウェーデンは、平和国家、高い人権意識を持つ国というイメージが強い。だが、本シリーズで描かれているのは、女性への人権侵害だ。『1』での失踪した少女は、幼少の頃より身内の人間から性的暴行を受けていたし、リスベットにも、精神科医テレポリアン(アンデレス・アルボム・ローセンダール)から想像を絶する虐待が加えられ、あげくの果てに、彼によって「無能力者」という烙印を押されてしまった。そのために後見人制度下に置かれたのだが、後見人の弁護士ヴュルマン(ペーテル・アンデション)からは、(『1』でも描かれていたとおり)おぞましい性的虐待を受ける。また、少女の強制売春をする闇の組織の存在も明らかにされるなど、女性を取り巻く過酷な状況は、平和国家スウェーデンのイメージとはかけ離れている。女性は男から虐げられる存在として描かれているのは、多少なりともショックではあったが、上辺のイメージでは分からないような、スウェーデンの暗部をえぐり出した作品とも言えるのかもしれない。

リスベットは、あらん限りの能力を駆使して、ただひたすらに闘う。誰と?――自分を虐げてきた男たち、とだ。何のために?――男たちに復讐するために、そして本来の自分を取り戻すために、だ。自分を含め女性を虐げる男たちに対する激しい怒りが、彼女を突き動かしている。次から次へと危険が迫り、命の危機にも晒されたリスベットだが、最後の決戦の舞台は、法廷。復讐を果たすため、自由を勝ち取るために、リスベットは自分の心の傷を晒すことになる。目的を達成するためなら、何の躊躇も見せないリスベットの強さには圧倒されるばかりだ。同性として、彼女と同じ立場に立たされたとしたら、自分は同じことができただろうか・・・と考えてしまう。

リスベットは、すば抜けた映像記憶能力、頭脳明晰で聡明、天才的なハッカーという能力を持ち合わせていたが、体力面では(例えば、『トゥームレイダー』『ソルト』のアンジェリーナ・ジョリーの超人的アクションシーンと比較すれば)やや見劣りする。彼女は身長150cm、体重40kgという小柄な体型だし、体力勝負となる体を張った闘いは不向きだったかもしれない(それでも壮絶なファイトシーンも数多くある)。だがその弱点を補ってあまりあるのは、リスベットの心の強さだ。それが如実に表れたのが、前述の法廷のシーンだろう。自分の心の傷を微動だにせず見つめる彼女の強さに敬服する思いがするし、何よりも人間にとっての最大の武器は、心の強さではないだろうか。本シリーズを通してそんなことを痛感した。

そんなリスベットがふっと脆さを見せるのが、ミカエルに抱いた感情だ。それは愛とか恋とか、単純な言葉でカテゴライズできないような、繊細で複雑な想い。ミカエルにぎこちない態度で接したり、「会いたくない」と強がったりするなど、彼女の鋼鉄の心の奥底に沸き上がった柔らかい感情を上手く処理できないという、不器用さを見せる。リスベットの、そんな人間味を感じさせる部分には共感できて、微笑ましくもある。ただ、その脆さは決して彼女の弱点ではない。むしろ未来を生きるうえで、彼女にとって必要不可欠なものではないだろうか。彼女は果たして自らの脆さを強みに変えていくことができるのか、そして、どのように対峙していくのか・・・。映画が完結した後、映画の「その後」に思いを巡らせてみたくなる。正視するのに耐えられないような、凄まじい暴力シーンや女性同士の濃密なセックスシーンなど、過激な描写が多々登場する本シリーズだが、「その後」への思いが後を引き、意外にも爽やかな余韻が心に響く。

いろいろな人から「『1』は未見だけど、理解できるかな」と質問されるのだが、できれば『1』をDVDなどで復讐、もとい復習してから続編を見るのをオススメしたい。『1』で登場したあるシーンが、『3』で物語の行方を決定づける重要な鍵となるし、3作通じての物語の高い構成力も堪能していただきたいからだ。また、リスベットとミカエルを取り巻く登場人物の関係も『1』から継続されているので、『1』を見ていたほうが、『ミレニアム』の世界にすんなりと溶け込めるだろう。
もう1つオススメしたいのが、できれば『2』と『3』はあまり時間を置かずに、観賞されることだ。(贅沢な見方としては、同日に連続して見てしまうことだが、上映館のスケジュールにもよるだろう。)そのほうが緊張感を持続でき、『ミレニアム』の世界にどっぷり浸かることができるはずだ。ぜひトライしていただきたい!

オススメ度:★★★★★

製作年:2009年、製作国:スウェーデン
監督:ダニエル・アルフレッドソン
出演:ノオミ・ラパス、ミカエル・ニクヴィスト
原作:スティーグ・ラーソン『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』(早川書房刊)
公式サイト:http://millennium.gaga.ne.jp/

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