「ヤバい経済学」身近な社会問題から経済を考える、建前なしの本音の経済学

©2010 Freakonomics Movie,LLC

 日本でも2006年に出版され、経済学の本としては異例の全世界で400万の部数を売り上げた「ヤバい経済学」が映画になって5月28日から一般公開された。

経済学というと、多くの人が難しい学問を想像するだろう。しかし、この映画にその様な学問臭など皆無である。なにせ取り上げられる題材が、身近に感じられないお勉強的なマクロ経済の話しなど一切なく、自宅の売り買い、子供の名づけ方、相撲の八百長問題、人工中絶、学校の問題など身近で誰もが興味のある事ばかりを取り上げているからだ。原作本が異例のヒットをしたのも、これらの身近な諸問題が経済にどの様な影響をもたらすかを多くのデータにより説得力を持って解き明かしていく過程が痛快だからである。

この映画のキーワードは、「インセンティブ」。インセンティブとは結果をもたらすための動機付けや成功報酬という意味で、インセンティブには金銭的なもの、社会的なもの、道徳的なものなどの種類がある。人はこのインセンティブによって行動を決めるのだが、インセンティブによって人は時に悪事を働いたりもする。また、他者のインセンティブが思わぬ結果を身の周りだけでなく国家の在り様までに及ぼす事すらある。そして、その結果の分析は原作者であるシカゴ大学教授のスティーヴン・D・レヴィットとジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナーの収集したデータによって説得力を増す。

©2010 Freakonomics Movie,LLC

不動産屋が自分の家は高く売ろうとするのに客の家は早く売ろうとするインセンティブ、もっとも信頼と尊敬を集めるはずの教職者が解答用紙に手を加え不正を行うインセンティブ、日本の国技・相撲で八百長が横行してしまうインセンティブ。それらは確かに説得力があるのだが、同時に人の持つ根本的な部分があからさまとなり、多くの人が眉をひそめたり不愉快になる結論であったりもする。だが、本当の事というのは自分が望んだりそうであって欲しい事とは違う事が往々にしてあるものなのだ。

経済学は、いかにすれば豊かな生活が出来、多くの人々が幸せになれるかという事を追求する学問だと思う。しかし、事はそれほど単純ではない。それを白日の下に晒してしまうから、この映画は「ヤバい経済学」なのだ。

経済とは、実はそんなに難しいものではないのかもしれない。人がインセンティブで動くと考えれば、小さいコミュニティにもインセンティブはもちろん働き、そこに経済活動が生まれる。ミクロ経済であろうとマクロ経済であろうと、人がインセンティブで動くという事実には変わりはないと感じる。映画の中の相撲の分析で語られた、日本でよく言われる本音と建前の、本音の部分を知りたいと思う人には刺激的で興味深い内容の映画である。

おススメ度:★★★★☆

Text by 石川達郎

2011年5月28日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

 提供:竹書房・メダリオンメディア・アンプラグド

 配給:アンプラグド

原作&出演:スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー

監督:アレックス・ギブニー(『GONZO~ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて~』)、モーガン・スパーロック(『スーパー・サイズ・ミー』『ビン・ラディンを探せ!』)、レイチェル・グレイディ&ハイディ・ユーイング(『ジーザス・キャンプ』)、セス・ゴードン、ユージーン・ジャレキ

2010/アメリカ/93分/アメリカンビスタ/ドルビーデジタル

公式サイト:http://www.yaba-kei.jp/

(c)2010 Freakonomics Movie ,LLC

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)