「ザ・ファイター」クリスチャン・ベールら、俳優陣の驚異の役作りに脱帽

第83回アカデミー賞にて、助演男優賞(クリスチャン・ベール)と助演女優賞(メリッサ・レオ)を受賞!助演のダブル受賞は「ハンナとその姉妹」(1986)以来の快挙だ。たしかに、クリスチャン・ベールとメリッサ・レオの怪演は、この奇跡の実話に説得力を与えている。

ボクシング史上最もエキサイティングな試合のひとつと言われる伝説の世界タイトルマッチで、人々の心に強烈な印象を残した兄弟がいる。マサチューセッツ州にある労働者の街ローウェルが生んだ、ミッキー・ウォードと彼の兄ディッキー・エクランドだ。本作は、性格もファイティングスタイルも全く違う兄弟の、成功に至るまでの葛藤と絆を描いた真実の物語である。

ミッキー(マーク・ウォールバーグ)のトレーナーは、物心ついた時からずっと兄のディッキーだった。ディッキー(クリスチャン・ベール)もかつては才能あるプロボクサーとして活躍していたが、数年前から麻薬に溺れ、トレーナーとは名ばかりの状態。そのため練習や調整が予定通りに進むことはなく、ミッキーはいつも試合で負けていた。マネージャーである母アリス(メリッサ・レオ)も彼の実力をきちんと見極めようとせず、勝ち目のない、時には無茶な試合ばかり組んでいた。
そんな苛立たしい環境の中でくすぶっているミッキーを心配する人がいた。恋人のシャーリーン(エイミー・アダムス)は、ついにミッキーと家族を引き離す計画を実行する。家族の凄まじい反対を振り切って、ミッキーは新たなパートナーとともに世界の頂点を目指すことを決意するが・・・。

このミッキー・ウォードの気骨に満ちたサクセスストーリーはボクシングファンだけでなく、人生の寓話として(とくに家族や環境に悩める人には)必見ものであるが、この物語に心酔し3年にも及ぶ訓練を積んだという主演のマーク・ウォールバーグら、出演者の熱演も見どころ。これでもかというほどにリアリティを追求した渾身の演技は本作の大きな魅力となっている。

クリスチャン・ベールは13キロの減量のほか、髪の毛を抜き歯並びを変えるという驚異の役作りで兄ディッキーになりきっている。ディッキーはユーモアとカリスマ性に溢れた麻薬中毒の元ボクサーだが、ある瞬間からガラリと別人格に豹変する。そんなディッキーを器用に演じたクリスチャン・ベールに、役者としての底力を魅せつけられるのである。メリッサ・レオも同じで、2人は物語の最初と最後でキャラクターが別人のようになるキーパーソンを演じているが、その変貌っぷりには脱帽である。





「一流の人間は言い訳をしない」という。家族や環境に悩まされながらも、自分の人生を諦めなかったミッキーの生きざまに、あらためてそれを教えられる。

おススメ度:★★★★☆
Text by 鈴木こより

3月26日(土)から丸の内ピカデリー他、全国順次公開。

監督:デヴィッド・O・ラッセル「スリー・キングス」
出演:マーク・ウォールバーグ「ディパーテッド」、クリスチャン・ベール「ダークナイト」、エイミー・アダムス「魔法にかけられて」、メリッサ・レオ「フローズン・リバー」
原題:THE FIGHTER
2010年/アメリカ/116分
公式サイト:thefighter.gaga.ne.jp

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  1. 名機ALPS(アルプス)MDプリンタ

    『ザ・ファイター』お薦め映画…

    家族と別れて成功したとして、果たして彼は幸せになれるだろうか? 勝利の瞬間、そこに喜びを分かち合う家族はいないのだ。家族を選ぶか、成功を選ぶか、それとも両方を手にするか? 兄弟愛に泣く、お薦め作品だ。…

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