【FILMeX】左利きの少女(原題)(コンペティション)

台湾へのラブレター

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母の運転する車で娘2人が台北に引っ越してくる。橋を渡って台北の市街に入っていくと、中心には101タワーが見え、道路にはたくさんのバイクが群れを成して走っていく。いかにも台北そのものというイメージでワクワクしてしまう。そもそもこの作品、台湾出身のツォウ・シーチン監督が20年以上温めていた企画で「台湾へのラブレター」とQ&Aで語っていたとおり、台北の街がとても魅力的に描かれているのである。シングルマザーとその2人の娘が、生活再建のために麺屋台を開く場所が、台北でもとりわけ魅力的な夜市であるところに、その意図がくみ取れる。幼稚園に通う5歳の女の子が走り回る、狭い路地は、冒頭彼女がのぞいていた万華鏡のようにキラキラと光り輝いているように見える。『フロリダ・プロジェクト』で、ディズニーワールドに入ることの出来ない子供たちが、それでも日常を遊園地のように魅力的な空間にして走り回っていたことを思い起こさせるのは、プロデューサーが『フロリダ・プロジェクト』の監督ショーン・ベイカーで、同作ではプロデューサーを務めたツォウ・シーチンが監督だからであろう。母親が借金を抱えているという設定も同作と通じるものがある。

 メインとなる話はなかなか辛いものがある。かつては上手くいっていた商売が破綻して借金を背負った夫が、おそらくその頃DVとかも起きていたのだろう、蒸発してしまい、借金だけが残ってしまったという過去がある。いったん台北を出て働いてようやく借金返済の目途もつき、再起を図って再び台北に戻り屋台を始めるのが、映画の冒頭。ところが元夫が余命僅かで入院中との連絡が入り、その治療費のため、また借金を背負ってしまう。始めたばかりの商売は順調にいっていたが、肝心の家賃が払えない。頼みの綱は、実家のお金だが、彼女の姉妹が猛反対して、援助をしてもらうことができない。長男にはたくさんの援助をしていても、甲斐性のない男に嫁いだ娘に援助するお金はないというわけだ。父系社会的な世界における、女性の生きづらさがここにある。
 
 母としては、長女との仲もうまくいっていない。学業優秀だったにも関わらず、父親のために苦難の生活を強いられ、大学にも行けず、今は小さなビンロウ売りの店でセクシーな格好をし、お客に媚びを売りながら働いている。父親に対して恨みを抱いているというのに、母は入院する父親の元に足しげく通い、そのうえ病院の治療費まで背負わされてしまう。そんな母に我慢ができずに、反抗的になっている。そして長女もまた、人には言えない問題を抱え込んでいるのである。

 そんな中で救いとなるのが5歳の少女である。左で箸を持つ姿を見て祖父に「左手は悪魔の手、使っちゃいけない」と言われて、彼女が考えたことは、だったら悪魔の手を使って万引きしようということだったのである。そんなことをしちゃいけない、観客はドキドキしなからも、打楽器の音楽の軽快さと、狭い路地を駆け抜けていく少女の自由奔放な動きがあまりにも眩しくて、眩暈を憶えてしまう。ツォウ・シーチン監督自身が実際に左利きで、幼い頃祖父からそのように言われたことが、このシチュエーションの元となっているのだが、子供時代、彼女自身が「悪魔の手」という言葉でイメージしたものの反映なのか、その発想の飛躍は、大人には思いつかないものである。だがその素直な視点こそが、後に家族を結び付けていくのである。

 この作品がショーン・ベイカー的でありながら、とても台湾的なのは、クライマックスを祖母の誕生日パーティーとしているところである。たくさんの親戚が集まり彼女の長寿を称えるのだが、台湾映画では、例外なく何がしかの事件が起こり、パーティーを計画した人が嘆かざるをえないような方向に向かうのである。最近の作品では誕生日ではなく、結婚披露宴においてではあるが、計画が狂いに狂い、さまざまな家族のわだかまりが噴き出すコメディ『ダブル・ハピネス』もこの系譜に入るだろう。『弱くて強い女たち』もまさにこれ。監督の「台湾へのラブレター」という思いは、自分自身の祖父の想い出、子供のころ育った台北の街への思い、それだけでなく台湾らしい映画を作るという点もあったのではないかと思う。この作品の誕生日パーティーにおいて何が起きるのか、その他色々ある台湾ドラマあるある的な世界については、ぜひ作品を観て、ご確認ください。


第26回 東京フィルメックス 開催概要

会期:2025年11月21日(金)〜 11月30日(日) (全10日間)
会場:有楽町朝日ホール ヒューマントラストシネマ有楽町
プレイベント:第26回東京フィルメックス 「香港ニューウェーブの先駆者たち:M+ Restored セレクション」
会期:2025年11月14日(金)- 11月18日(火)
会場:ヒューマントラストシネマ有楽町
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス
共催:朝日新聞社

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