【TIFF】山崎バニラの活弁小絵巻 2025(TIFFチルドレン)

映画愛に溢れたツッコミに笑いの渦が!

11月2日(日)、第38回東京国際映画祭のユース部門 TIFFチルドレン「山崎バニラの活弁小絵巻2025」が、東京・有楽町のTOHOシネマズ シャンテ1で開催された。8年目となった「活弁小絵巻」。今年は例年よりなぜかお子様が少なめだが、すっかりお馴染みのイベントとなり、観客席は満員で熱気にあふれていた。本日のバニラさんの衣装は、いつもの着物だけでなく、チャップリン映画の上映に合わせて小さめのハットをちょこんと斜めにかぶって登場、雰囲気が出ていて、とてもよくお似合いだ。

何と、昨年の映画祭でスペイン語の挨拶をしたところ、その後、本当にスペイン語圏から活弁公演に来られた方がいたとのこと。会場内には、確かに外国人のお客さんの姿も見える。ということで、今年も英語だけでなくスペイン語でも挨拶がされた。「Muchas gracias por acompañarnos hoy.…今年はチャップリンのコメディと、昔の日本のアニメ、つっこみどころ満載の教育映画を大正琴やピアノ、フラメンコ用カスタネットなどの弾き語りでお届けします。ごゆるりとお楽しみあ~れ~!」

『一寸法師 ちび助物語』

1935年/日本 /10分 ・モノクロ
監督:瀬尾光世
楽器:大正琴

前説
「最初にご覧いただくのは昭和10年、1935年封切りの漫画映画『一寸法師 ちび助物語』 でございます。「わ!漫画が動いた!」というわけで、アニメは「漫画映画」と呼ばれて いました。 おなじみ一寸法師の昔話ですが、奇想天外な作戦で鬼をやっつけるたいへん楽しい黎明期のアニメとなっています。 作画の瀬尾光世さんがその後『桃太郎 海の神兵』というアニメ史に欠かせない大作を残します。昨夜、東京国際映画祭で上映されました。ご覧になった方いらっしゃいますか?おっ、結構いらっしゃいますね。私も自分の本番直前だったのですが、実は見てきました。私がいたの、全然気が付かなかったですよね。素晴らしい上映でしたね。この『桃太郎 海の神兵』は検閲を経て、1945年、終戦の年に公開されました。手塚治虫さんが焼け残った映画館で本作を見てとても感動し、アニメ制作を志したという作品です。それより10年前に作られた『一寸法師 ちび助物語』。アニメ大国ニッポンの原点、大正琴弾き語りでお楽しみください。」

お姫様と出かけた一寸法師が、途中鬼と会い、奇想天外な方法で鬼を退治する。一番驚いたのは、一寸法師が自分の印鑑を作って次々複製を作るところ「印鑑で分身の術、チビも増えれば百人力」。また、マッチ棒を使ったロケット弾「このマッチ棒はどういう原理で飛んでいくのでしょうか」バニラさんも原理を思いつかない奇抜さ。発想がとても自由で伸び伸びとしている。その分ツッコミどころが多いのも玉に瑕。お姫様の後を一寸法師が付いていく場面では、少し作画がおかしい。カエルと同じくらいの大きさだった一寸法師が子供くらいの大きさになっている。「このシーンだけ十寸法師ですが、考えないようにお願いいたします」バニラさんのツッコミがお見事で、それを感じていた場内は大爆笑だった。「それ捕まえろ、やれ捕まえろ」軽快な大正琴と掛け声のテンポ、時々挿入される歌が素晴らしく、作品の魅力が倍増された。

『少年美談 清き心』

監督:内田吐夢
1925年/日本/32分・モノクロ
楽器:大正琴、鈴=ドラム・シストレム、カスタネット

前説
「続いてご覧いただきますのは1925年、大正14年、今からちょうど100年前の無声の教育映画『少年美談 清き心』です。 本作は大阪のプラネット映画資料図書館によって1995年に発見され、現在は神戸映画資料館の所蔵作品です。『少年美談 清き心』を製作した社会教育映画研究所というのは本作公開の前の年、1924 年に、古林貞二(ふるばやしていじ)さんが設立した映画会社です。本作の原作・ 脚色も務めています。実は、古林貞二さんのご兄弟が代々、小田原にある城源寺のご住職様を務めていらっしゃいます。現在のご住職・古林哲茂(てつも)様に古林家に伝わる貴重な文献を拝見させていただき、古林貞二さんは日本映画の父と称されるマキノ省三監督を公私に渡り支えた人物であったことがわかりました。また神戸映画資料館の安井喜雄館長の調査により、古林貞二さんは大正時代の映画会社、 国活巣鴨撮影所の所長も務めていたことがわかりました。」

「本作を監督した内田吐夢監督は戦後も『宮本武蔵』や『飢餓海峡』など重厚な傑作を多く残した巨匠です。無声映画時代はキレキレのコメディを多く作っていました。本作も教育映画なのに、だんだん様子がおかしくなっていく展開が最高です。内田吐夢監督の最初の頃の活動はよくわかっておらず、『少年美談 清き心』ははっきりした記録が残るお一人での監督デビュー作とも言われていますが、これまであまり上 映の機会がなかったたいへん貴重な作品です。大正琴やフラメンコ用のカスタネットなどを演奏しながら活弁いたします。ごゆるりとお楽しみくださいませ。」

 

©神戸映画資料館

修身(道徳)の授業をする現代劇の部分と、授業をする先生のお話「安倍川の義夫」の部分が二重の構造になっている。また、人物が話し始めるとすぐに回想場面になるという作りで、想像するところの教育映画とはだいぶ趣が違っている。道祖神のところに何かを埋めた少年と、お金を落として途方に暮れる少女をたまたま見かけた先生がする修身の話は、「正直者であれ」ということで、これは少年が拾ったお金を隠したと思った先生が、彼にその告白をしてほしいと願いを込めてしたお話である。「安倍川の義夫」は静岡県の安倍川周辺ではよく知られた逸話で、静岡市には安倍川の義夫の碑まで建っているそうである。何かを埋めた少年役は水島道夫、後の水島道太郎という、バニラさんの解説が素晴らしい。これはネットで検索しても出てこないプロフィール、貴重な情報をよく調べられている。古林貞二さんが大正時代の映画会社、 国活巣鴨撮影所の所長も務めていたということからすると、そこが後に大都映画の撮影所となったことからして、水島道太郎がそこに入りようやくスターになるというのも、その縁なのかもしれない。

バニラさんの解説は、江戸時代を知らない観客にとっては、実にきめ細やか。「雲助、手代、渡し舟、川止め」子供が観ていてもよくわかるように配慮されている。また、この地方の民謡ノーエ節がメインテーマになっていて、ある時は大正琴で緩やかに、追っかけの場面では、そのテンポに合わせてカスタネットを操り、しかも替え歌にして演奏されたのが見事だった。まさかフラメンコで使われるカスタネットが日本の民謡で使われるとは、カスタネットも思いもしなかったことだろう。

©神戸映画資料館

「安倍川の義夫」の部分では、教育映画とは言いながら内田吐夢監督は相当に遊んでいるのではないかという気がする。追っかけているうちに、追う方、追われる方がハシゴに挟まり、その距離が縮まらないというギャグなどは、ハリウッドのスラップスティックそのものである。また、フィルムが失われてしまっていて、追いかける中でどういう事故が起こったのかは不明ではあるが、出てきたら顔が粉で真っ白というのも、パイ無げならぬ、餅投げのようなことがあったのではと想像する。そのドタバタを、「授業中先生は落語のようにずっとこれを演じているのでしょうか」と、この映画最大のツッコミをしたバニラさんのギャグも冴えていて、教育映画らしからぬ誠に楽しい一編だった。
(あれっ、先生、字を間違えている!? 安部川⇒安倍川)

『チャップリンの冒険』

1917年/アメリカ/20分・モノクロ
監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、エドナ・パーヴィアンス、エリック・キャンベル
楽器:ピアノ、スライドホイッスル

前説
「最後にご覧いただくのは、チャールズ・チャップリンが監督・主演した作品です。チャップリンは “喜劇王” と呼ばれた、映画の歴史の中で最も有名なコメディアンです。台詞のない無声映画時代に、チャップリンは身ぶりや表情だけで観客を笑わせ、ときに泣かせました。言葉がなくても伝わる演技は、世界中の人をとりこにしました。チャップリンといえば、黒い山高帽、ちょびひげ、ぶかぶかズボンに大きな靴、そしてペンギンみたいな歩き方もとても特徴的です。この姿で演じたのはどんなにつらくてもめげない、庶民のヒーローでした。 これからご覧いただくのは1917年、大正6年封切りの『チャップリンの冒険』という作品です。本作は、ミューチュアルという会社でチャップリンが最後に作った作品です。追いかけっこのドタバタや、ハラハラする場面がたくさん出てくる、とても楽しい名作です。 そしてこの作品は、日本では“微笑(ほほえみ)と一粒の涙”とよばれるようなチャップリンの作風が本格的にはじまる、その前の大切な一歩でもありました。 本作と『一寸法師 ちび助物語』はマツダ映画社様からお借りしています。電子ピアノ弾き語りでご覧ください。」

脱獄囚のチャップリンが、海で溺れそうになっている判事の母娘を助けたことから命の恩人として家に招待される。前半は、チャップリンと警官たちの追っかけ、後半は判事の令嬢エドナとのロマンスと、身元がバレて大騒動という展開。この頃のチャップリンの映画は完成度が高く、ツッコミどころが少なく、観ているだけで可笑しいので、かえって活弁が難しいのではと想像する。しゃべり過ぎてもいけないし、しゃべらなければ弁士の個性が出ない。そんな気がするのである。その点、「チャップリンうしろ、うしろ」と画面に向かって注意をするのが、いかにもバニラさん的だし、「あっ、見なかったことにして」「見えてるぞ」「逃げろー」「逃がすかー」のようなセリフ回しが、テンポが良くて登場人物たちの動きにもピタリとはまっていて心地よい。チャップリンが、溺れている母娘を助けようとして一端母親のほうに行くものの、エドナを見つけて急旋回するところでは、「囚人だって人は助けます。ただし人は選びます」と、ギャグの意味するところを補完して更に効果的になるように工夫がされている。また、警官をA班B班C班と区分けしたり、エドナのヒゲの求婚者をマッスル・ヒゲ男と名付けたりといったところも、バニラさんらしさがとてもよく出ていてたまらない。(それにしても本当にピッタリなお名前)

チャップリン映画のファンとしては、運転手役で出演した高野虎市(こうのとらいち)さんの紹介だけではなく、アルバート・オースチンを紹介したところもとても嬉しいところ。ヘンリー・バーグマンでもエリック・キャンベルでもなくアルバート・オースチンである!1916年、チャップリンがミューチュアル社に移った頃から1931年『街の灯』までチャップリン映画の脇役として出演、チャップリンが映画界に入る前に所属したカルノー一座出身の人である。「ワインを持っているボーイさんにご注目、アルバート・オースチン。チャップリン作品に様々な職業の役で登場していた控えめな脇役です。ほらね、せっかく紹介しているのに隅っこのほうに行ってしまいました」と、紹介を笑いに結び付け、彼に花を持たせたみたいなところに、バニラさんの深い映画愛を感じた。それゆえ映画のほうもバニラさんにお返しをしたのか否か、デザートに運ばれてきたアイスクリームに、エドナとチャップリンが「やっぱりバニラは最高だわ。バニラは最高だね。」と。バニラさんもすかさず「ありがとうございます。」とお礼を述べたのでした。

今回の公演は確かにお子様が少なかったのではあるが、その代わり“元お子様”の大人たちが、大いに笑い、館内が文字通り笑いの渦(一端笑い始めると止まらなくなり、それが波となり隣の人に伝わって、笑いが治まらなくなるという、映画館特有の幸福な体験)に包まれた。「実は私は来年で弁士生活25年となります。これからも精進いたしますのでぜひ活弁ライブのほうにもお運びください。本日はまことにありがとうございました。」退場まで拍手が鳴りやまなかった。

山崎バニラ(やまざき ばにら)プロフィール

(活動写真弁士)
活動写真弁士。2001年、無声映画シアターレストラン「東京キネマ倶楽部」座付き弁士としてデビュー。独特の声で大正琴とピアノを弾き語る独自の芸風を確立。2022年からはフラメンコ用カスタネット(パリージョ)も取り入れる。
2012年~こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロで独演会「山崎バニラの活弁大絵巻」を開催。
2018年~東京国際映画祭ユース部門で活弁を披露。
2019年公開、周防正行監督『カツベン!』に出演。
2021・2022年上演、オペラ『美しきまほろば~ヤマトタケル』道化役。
2021・2022年放送。清泉女子大学のスペイン語学科卒業の経歴を生かし、NHKラジオ『まいにちスペイン語~マサトのマドリード日記』でコーナーを担当。声優としてもアニメ『ドラえもん』ジャイ子役他出演作多数。宮城県白石市観光大使。パソコンで動画・音楽・アニメ・ホームページを自作する。
著書に『活弁士、山崎バニラ』。2026年活動弁士生活25周年を迎える。
(オフィシャルサイトより転載)

公演予定

第三回「京の活動写真 下鴨映画祭」
2025年12月11日(木)13:00~17:30(開場12:15予定)
■会場:京都府立文化芸術会館
■チケット:入場無料/指定席
■申込方法:11月20日(木)必着
「往復ハガキ」(1枚で3名まで申込可)に 申込代表者氏名・住所・電話番号・メールアドレス(任意)及び申込者全員の氏名をご記入の上
〒600-8064 京都市下京区本上神明町440 尾上松之助遺品保存会 迄 ご郵送下さい。
※お申込多数の場合は抽選となります。

山崎バニラの活弁大絵巻2026 ~弁士25周年~
2026年2月28日(土)14:00開演(13:30開場)
■会場:こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(JR新宿駅南口 徒歩5分)
■演目
『活動写真ことはじめ』2025年制作 自作動画
『大学は出たけれど』大正琴弾き語り
『ロイドの初恋』ピアノ&カスタネット弾き語り
作品提供:マツダ映画社
■チケット:12月1日(月) 10:00発売開始
全席指定¥2,500/高校生以下¥1,500 ※4歳以上入場可
※本公演は〔こくみん共済 coop 組合員価格〕対象公演です
■チケット取扱
CNプレイガイド・ローチケ(Lコード:31845)・イープラス
■主催・お問合せ:スペース・ゼロ 03-3375-8741(平日10:00~17:30)
■制作:(株)スペース・ゼロ



第38回東京国際映画祭開催概要
期間 2025年10月27日(月)~11月5日(水)[10日間]
開催会場 シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:https://2025.tiff-jp.net/ja/

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