【TIFF】パレスチナ36(コンペティション)
【作品解説】
1936年、英国委任統治時代のパレスチナを舞台に、パレスチナのアラブ人たちがユダヤ人入植者たちと、英国植民地支配への反発から起こした民族主義的な反乱を描いた作品。田舎の故郷での伝統的な暮らしを愛しながらも、エルサレムの政治的・社会的緊張に巻き込まれてゆく若者ユスフを中心に、この時代の出来事がパレスチナの民族的アイデンティティにどのような影響を与えてきたかが、スケールの大きな映像の中に描かれる。その意味では、単に過去の出来事を描いた歴史劇ではなく、現在のパレスチナ問題を照射する作品と言えるだろう。監督は、パレスチナを代表する女性監督アンマリー・ジャシル。名優ジェレミー・アイアンズが英国高等弁務官役で出演している。
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/英国の罪深さ度:★★★★
今までサイクス=ピコ協定という言葉は知っていても、現実にはどんな状況だったのかは、ピンとこなかった。この作品では、港が盛り、広い農園に農作物が実る、まだ豊かな時代のパレスチナの実際の様子が映され(スタンダード画面)また、ユダヤ人入植者が壁を作って土地を侵食してくる初期の段階でのパレスチナ人のまだのどかな反応も見ることができる。その後どのようにして今日の状況になっていくのか、その原点をとてもわかりやすくかつ、いくつかの異なる立場のパレスチナ人家族を通じて描いている。「パレスチナの伝統を守り、豊かにしていきます」という英国高等弁務官の言葉。その一方で英国は民族の分断を図り、自分たちへの不満を別の所に向ける政策を取る。今回上映の『母なる大地』(マレーシア)も同じ構図である。今日の悲惨な状況に繋がる原点を知ると、パレスチナ問題というのは、思った以上に複雑なものではなく、意外に単純なところから始まっていることがわかる。
鈴木こより/何かが変わっていくのだという期待度:★★★★☆
この対立はまだまだ続くのだろうか。英国の三枚舌外交によって、劇中ではパレスチナ人の暮らす美しい丘がユダヤ人ではなく、英国人に壊され、燃やされていく。
村の男たちは殺され、土地も奪われ、絶望感に包まれていくが…。そんな中でも裸足で駆け抜けていく少女、夫とは別の生き方を選ぶ女性。パレスチナの強くて賢い女性たちがこの国の未来を拓いてゆく、というメッセージなのではないかと受け止めた。
第38回東京国際映画祭開催概要
期間 2025年10月27日(月)~11月5日(水)[10日間]
開催会場 シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:https://2025.tiff-jp.net/ja/