【TIFF】 赦されぬ罪(アジアの未来)
劇中ヤコブの福音書が引用される。試練を与えられた人々に対して、忍耐することと、そのことの意義を説いている。果たして人は他人を赦すことができるのか。牧師の元に偶然転がり込んできた、娘を自殺に追いやったレイプ犯の青年。他人を赦しなさいと言っていた牧師の苦悩がここから始まる。頭では理解していても、娘の復讐に燃える父親としての心がそれを邪魔する。青年に十字架を背負わせ裸足で山を登らせる印象的なシーンがある。ゴルゴダの丘に十字架を運ぶキリストのイメージ。しかし、これは青年の更生を隠れ蓑にした復讐の一つではなかったのか。彼を待たず、突き放したような態度で先に頂上に登っていたところに、そんな感情が現れている。この時、本当に思い十字架を背負っていたのは、むしろ牧師のほうではなかったか。
到底許されない罪を犯した青年の屈託のない笑顔、子供たちの面倒を見てやる青年の優しい顔。そこに彼の善の心が見える。一方で亡くなった娘のほうも清廉潔白だったとは決して言えない。被害者と加害者。優しい心を持つ2人がなぜこのようなことになってしまったのか。誰の心の中には善と悪の心が潜んでいる。牧師も一人の人間に過ぎず、彼の中にある恨みの心が消せるはずもない。青年の屈託のない笑顔と、聖職者であるはずの牧師の敵意を内に秘めた目。ここでは立場が逆転している。牧師の心の奥にある深い闇。それを否定することなく、むしろ認めることでしか、彼は新たな境地に達することはできないであろう。
青年を絶対に許せないと言いながらも、瘦せ過ぎた彼の身体のことを気にかけてしまう牧師の妻。そこには人としての自然な気持ちが溢れていた。多分これでいいのだ。普遍的なものをそこに感じる。牧師役のアンソニー・ウォンの抑えた演技が素晴らしい。
(★★★★☆)
第37回東京国際映画祭
会期:令和6年10月28日(月)~11月6日(水)
会場:シネスイッチ銀座、丸ノ内TOEI(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、有楽町よみうりホール、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト: https://2024.tiff-jp.net/ja/