【TIFF】山崎バニラの活弁小絵巻2024(TIFFチルドレン)
11月3日文化の日、第37回東京国際映画祭のユース部門 TIFFチルドレン「山崎バニラの活弁小絵巻2024」が、東京・有楽町のTOHOシネマズ シャンテ1で開催された。7年目となり、すっかりTIFFの名物となった「活弁小絵巻」。今年も晴天に恵まれ、多くの家族連れの観客で賑わった。また、海外からのお客さんが増えていること、またこの会のオープニングが世界に配信されるということで、英語とスペイン語でのあいさつも行われ、「国際映画祭」の気分を盛り上げた。今年も子供から大人まで、大いに笑って楽しめる選りすぐりの3作品が揃っていた。
『三公と蛸』
監督:村田安司
1933・日本/16min/Japanese 配給:マツダ映画社
バニラさんによる前説
「まず最初にご覧いただきますのは1933年、昭和8年、今から91年前の日本のアニメ『三公と蛸~百万両珍騒動』です。当時はアニメの事を漫画映画と言っていました。
無声映画は残っている作品が残念ながらとても少ないです。残っている作品も保存機関によって残っているシーンが違う事がよくあります。本日はマツダ映画社所蔵バージョンをご覧いただきます。本作は現在の郵便局のような役割をしていた旧逓信省の委託を受けて作られました。実際の映像には保険の加入を勧める中間字幕がありましたので、その内容も活弁でできるだけ再現しつつご覧いただきます。現代の弁士には〈失われたシーンを補う役割〉もあるのではないかな…と思っております」
冒頭の鎮守の森での踊りの場面、太鼓と大正琴とバニラさんの歌が、お祭りの雰囲気を醸し出していて、とても魅力的だ。まるでミュージカルのよう。スライドホイッスルも使って効果音まで出しているので、無声映画であることを忘れてしまう。作画の村田安司のアニメが背景の上に登場人物の切り貼りを置いて一コマずつ撮影したことなどを、物語の邪魔にならないようなタイミングでサラリと入れてくれるのもありがたい。〈合間に作品の解説を入れられる〉のも、弁士の強みと言える。
鎮守の森の佇まい、三公の家のボロ屋ぶり、海中の場面の水のユラユラした感じなど、背景画が91年前の作品とは思えぬほど、細やかなのに驚かされる。沈没船のお宝さがし。後で謎がわかるとは言うものの、三公が海の中でも息ができたり、タコが歩いたり、何かがおかしい。「息は苦しくないのだろうか」というツッコミが絶妙なタイミングで入る。
三公が見つけたお宝を追ってきたタコが陸上に上がり、徐々に走り方を上達させていくのが面白い。タコの奥さんまで登場し、彼女が丸髷を結っているのも変すぎる。「どうやって頭に丸髷を固定しているのでしょうか」というバニラさんのツッコミが、笑いのツボにハマった。終盤失われていた逓信省のお知らせをきちんと入れたことで、物語の流れが腑に落ちる、という効果をもたらしていた。戦前の役所というと悪いイメージを持ちがちだが、こんな洒落た宣伝をしていたということも意外な発見だった。
『床屋のココさん』
監督:デイヴ・フライシャー
1925・米/6min/No dialogue 配給:おもちゃ映画ミュージアム
バニラさんによる前説
「続いては1925年、大正14年、今から100年近く前のアメリカのアニメーションです。大人の方はポパイやベティ・ブープをご存知の方も多いと思います。これら大人気キャラクターを生み出したフライシャー兄弟の初期作品にインク壺シリーズがありました。この中から『床屋のココさん』をご覧いただきます。
フライシャー兄弟はロトスコープの発明で1917年に特許を取りました。簡単にご説明しますと、一コマずつ実写をなぞってアニメーションを作る装置です。元となる実写の撮影では弟のデイヴ・フライシャーがココの動きを担当しました。
ココはいつもお兄さんのマックス・フライシャーがインクで描く事でスクリーンに登場します。つまり実写のマックスとアニメのココも共演しつつ、ココはロトスコープで制作されているので、実写のようになめらかに動く…ややこしいですね!百聞は一見にしかず。カスタネット弾き語りでご覧ください」
バニラさんの活弁は、フラメンコ用カスタネットと足のステップでリズムを刻む弾き語り。床屋のココさんが、髪を切るというシンプルな動きに、カスタネットのリズムがとても良く合い、笑いの波が次々押し寄せる。22年以降色々なところで披露されてきた、バニラさん第3の活弁スタイルなのだが、東京国際映画祭では初披露となった。
「鼻削ぎ、耳削り苦情無用、恐るべきお店のキャッチフレーズ」が示すように、次々訪れるお客さんに、ココさんはとんでもない理容の技を披露する。ココさんが自分でインクを使い、物語を作り出すという設定になっているので、表現方法は自由自在。顔を剃るのに耳が邪魔になると、簡単に耳の位置を動かしてしまったり、剃り過ぎて頭を削ってしまったり、ナンセンスギャグのオンパレードだ。お子さんにも大受け。笑い声がよく響く。髪の毛が1本のお客さんの毛をつかんで引っ張り上げると、毛が伸びる、伸びる、頭の中からいくらでも出てきてしまうというシュールなギャグは、後に「天才バカボン」にも登場しているが、もしや赤塚不二夫もこの作品を観ていたのだろうか。