【TIFF】山崎バニラの活弁小絵巻2023(TIFFチルドレン)
『ちびっ子ギャングのホット・クリスマス』(1926年/米/20分)
監督:ロバート・F・マクガワン 出演:ジョー・コブ、ミッキー・ダニエルズ、アレン・ファリナ・ホスキンス
「ちびっ子ギャングシリーズはこどもたちが主人公で、子供目線、子供たちの発想で世の中の流れを捉えています。なので、よく考えると、この子たちの親はどうしているのか?とか、学校には行っていないのか?など、気になる点はありますが、まあ、それは置いておいて、友情や他人への思いやりも描かれておりますので、現代でも共感できるところがあると思います。さらに、『ホット・クリスマス』には別のエッセンスが強めに盛り込まれています。それは今、話題の多様性です。多様性とは色んな場面に使用されますが、性別、年齢、国籍、宗教、考え方など異なる人同士が、お互いを尊重しあって共存している状態を表現するときにも使用されます。私はこの作品からその多様性のメッセージをたくさん感じました。」
「クリスマスイヴ、貧困と悲しみが握手しあう場所で…ちびっこギャングを製作したハル・ローチスタジオは、カリフォルニアのカルバーシティにありました。暖かい気候の街なので真冬のセットなのか、カナダのほうにロケし街のセットを建てたのか、膨大な製作費であることは間違いありません」
通りの向こうが見えないほどたくさんの雪が降っている。おもちゃ屋のショーウインドーではサンタクロースが、踊るおもちゃの人形を実演販売している。(小さな人形たちは本物の人間が演じ合成されている)子供たちはサンタが偽物であることに気がつき、その存在を疑い始める。クリスマスというのに家もなく、ひもじい思いをしている子供たち。そんななかでも、寒さに震える松葉づえの子がいたら、温かいお湯の入ったブリキ缶を手渡し、それで暖をとらせてあげる。その優しさ。さらには、偶然火で温まったブロックで足を温めることを思いついたちびっこギャングのリーダーたちは、それを色々な人に配り小遣い稼ぎをする。警官だろうと、足の不自由な人であろうと区別はない。
「ちびっこギャングには100年前から障害も、人種も、宗教も超えた友情がありました」
そのお金で材料を買って手作りのおもちゃを作り、子供たちにクリスマスプレゼントを配ろうとするちびっこギャングのリーダーたち。そこにサンタの恰好をした悪者たちが、警官の追跡をかわすため、おもちゃに密造酒を隠してやってくる。(禁酒法の時代)、そうとは知らず本物のサンタに導かれて(ぼんやりとした二重露光で観客にしか見えない)、偽物サンタたちを撃退する子供たち。結果として部屋には悪者たちが持ってきた、たくさんのクリスマスプレゼントが残される。サンタクロースが本当にいると信じる子供たちの、ホロリとさせられる、優しさに包まれた物語である。ドタバタの『ガラクタ列車』とは全く違うテイストで、ピアノも、サンタクロースを信じて祈る子供たちの「お願い、お願い、お願ーい」という歌を中心にしっとり演奏され、会場の子供たちも静かに、夢中になって物語を見つめていた。『突貫ガラクタ列車』から2年後、前者が簡単なストーリーでドタバタを中心に作られていたのに対して、この作品には後の『素晴らしき哉、人生!』『三十四丁目の奇蹟』に繋がる、いかにもアメリカ的なクリスマス映画の萌芽が感じられる。特撮も当時としては非常に凝っており、映画が進化しているのを感じた。
『突貫小僧』と「ちびっこギャングシリーズ」
今回小津安二郎120年記念企画として上映された『突貫小僧』と「ちびっこギャングシリーズ」を組み合わせて上映したことは慧眼であった。日米の笑いのセンスの違いが比べられてとても興味深いのだ。もちろんお金のかけ方が比べものにならないほど違うのは一目瞭然である。アメリカ映画は仕掛けが大きく、とにかく子供たちが動き回る。スピード感もあり、次々にギャグが仕掛けられる。一方日本映画では子供たちの活動範囲は、町の路地裏である。元気よく動き回ってもたかが知れている。最大の違いは、日本映画は子供たちの振る舞いに翻弄される大人の顔で笑わせるのに対して、アメリカ映画の笑いは子供たちだけで完結している。日本映画が暮らしの延長線上に笑いがあるのに対して、アメリカ映画には、日々の暮らしから離れたところで笑いが成り立っている。特に『突貫ガラクタ列車』はそれが顕著だし、貧しい子供たちを描いた『ホット・クリスマス』にしても、子供たちだけの共同生活というところに、子供時代なら夢見るだろうユートピアが確かに存在する。
今回の上映では、『突貫小僧』は大正琴で、ちびっこギャングはピアノで伴奏されたのだが、スピード感といい、雰囲気といい、とてもピッタリはまっていた。子供たちにとっては『突貫小僧』も『突貫ガラクタ列車』も子供が主役ということで、身近に感じられたのだろうか、よく笑っていた。大人がそんな笑っていないところでも反応しているところもあり、それも一興だった。100年も前の映画が今でもこんなにも人を楽しませることができる、もちろん、山崎バニラさんがそこに新しい命を吹き込んでもいる。そのことにロマンを感じる。この作品を観た子供たちが、また来年も会場に足を運んでくれて、映画を劇場で観るという文化を引き継いでいってほしい。まさにそれがTIFFチルドレンの当初の目的であり、精神なのである。
山崎バニラ(やまざき ばにら)プロフィール
(活動写真弁士)
活動写真弁士。2001年、無声映画シアターレストラン「東京キネマ倶楽部」座付き弁士としてデビュー。独特の声で大正琴とピアノを弾き語る独自の芸風を確立。2022年からはフラメンコ用カスタネット(パリージョ)も取り入れる。
2018年~東京国際映画祭ユース部門で活弁を披露。
2019年公開、周防正行監督『カツベン!』に出演。
2021・2022年上演、オペラ『美しきまほろば~ヤマトタケル』道化役。
2021・2022年放送。清泉女子大学のスペイン語学科卒業の経歴を生かし、NHKラジオ『まいにちスペイン語~マサトのマドリード日記』でコーナーを担当。
声優としてもアニメ『ドラえもん』ジャイ子役他出演作多数。
宮城県白石市観光大使。パソコンで動画・音楽・アニメ・ホームページを自作する。
著書に『活弁士、山崎バニラ』。
(オフィシャルサイトより転載)
公演予定
山崎バニラの活弁大絵巻 in なかさつない
2023年11月18日(土)14:00開演(13:30開場)
■会場:中札内文化創造センターハーモニーホール(北海道河西郡中札内村)
■演目「活動写真 いまむかし」「突貫小僧(おもちゃ映画ミュージアム版)」「ロイドの福の神(特別版)」
詳細はVanilla Quest オフィシャルサイトhttp://vanillaquest.com/をご覧ください
第36回東京国際映画祭
会期:令和5年10月23日(月)~11月1日(水)
会場:シネスイッチ銀座、丸の内TOEI (中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、丸ビルホール、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、有楽町micro、東京宝塚劇場(千代田区)ほか
公式サイト:https://2023.tiff-jp.net/ja/