【TIFF】山崎バニラの活弁小絵巻2023(TIFFチルドレン)

大正琴とピアノで弾き語る「日米ちびっこギャング大会」

 10月28日、第36回東京国際映画祭のユース部門 TIFFチルドレン「山崎バニラの活弁小絵巻2023」が、東京・有楽町のTOHOシネマズ シャンテ1で開催された。6年連続の出演となった今年の映画祭では、小津安二郎生誕120年記念企画として特集上映が行われており、今回のプログラムはその企画に合わせる形で、新発見カットを含むマーヴェルグラフ版『突貫小僧』を初めて活弁で上映することとなった。バニラさんは、これまでにも国立映画アーカイヴ版、2016年に発見されたおもちゃ映画ミュージアム版と何度も活弁して、作品を知り尽くしており、それゆえに今回の新発見版のどこがどう違うのかを活弁のなかで披露するところも、見どころ、聴きどころとなっていた。『突貫小僧』の上映前には、客席に来られていた突貫小僧=青木富夫の孫の青木拓磨さんが紹介され、会場の雰囲気は大いに盛り上がった。

小津安二郎生誕120年

『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(1929年/日本/21分)
監督:小津安二郎
出演:齋藤達雄、青木富夫、坂本 武

 (以下「」内は山崎バニラさん)
「それでは皆様お待ちかね、今年新たに発見・修復されたばかりの『突貫小僧』からご覧いただきます。1929年、昭和4年封切りの作品です。今年生誕120年となる小津安二郎監督は無声映画以降、音が出る映画になってからも数々の名作を生みだし、世界的な評価も非常に高い監督です。『突貫小僧』はこれまで何度か発見されたドラマチックな作品で、本当は38分ほどの長さがあったそうなので、まだまだ発見されるかもしれません。周防正行監督は突貫小僧君や小津安二郎監督へのオマージュとして、『シャル・ウィ・ダンス』『カツベン!』はじめ、ご自身の様々な作品に突貫小僧君の本名「青木富夫」という役名のキャラクターを重要な役どころで登場させ、全て竹中直人さんが演じていらっしゃいます」

©1929松竹株式会社

 人さらいが子どもを誘拐したが、扱いになれていなかったため逆にたじたじとなり、たくさんおもちゃを買わされた挙げ句、結局元のところに戻すという短編喜劇。青木富夫が突貫小僧を本当に自然に、楽しそうに演じていて、それに対峙する大人のプロの俳優たちとの掛け合いが本当に面白い。マーヴェルグラフ版ということで、バニラさんが新発見されたシーンを紹介するのだが、その仕方がとても洒落ている。例えば「新発見のお蔭で出番が増えて嬉しいわー」なんて、松竹蒲田の女優花岡菊子(デビュー間もない)がしゃべったりするのである。新発見と言えば、会場で大人以上に子供たちに異様に受けていた、誘拐犯齋藤達雄の髭がずれたり、取れたりするシーンでは、その前に突貫小僧が噴水の水を補注網ですくうシーンがあり、それを男の頭に被せたことから、髭が取れたということがこの度わかり、なるほどと思った。このことからも、今回失われていたところというのは、そのシーンが抜けていたとしても流れで見てはしまえるが、よくよく考えれば、どうしたのだろうというようなシーンがカットされている傾向があるようにも見える。

 『突貫小僧』は、子供が主人公ということもあって、複雑な会話はもちろんない。短い言葉が交わされるのみである。その会話が、口の動きと合っていることも相まって、完璧にスクリーン上から発せられているようにも見えた。それだからこそ、坂本武扮する人さらいの親分が、弁士に苦情を言うシーンはとても効果的で、かつ可笑しい。親分が子供を叩いたことに対してバニラさんが「人を叩くのはいけません。とはいえ、昭和初期の文化価値観も垣間見られるのも無声映画の楽しいところ」と解説すると、「おい、弁士ちっとも楽しかねぇぞ」と親分。思わず「あっ、親分すみません」と謝るバニラさん。90年以上もの時を超えて、スクリーン上の俳優と弁士が会話するとは、なんと素敵なのだろう。

ちびっ子ギャングシリーズ

 「続いては「突貫」つながりで『突貫ガラクタ列車』『ホット・クリスマス』のちびっ子ギャング2本立てをご覧いただきます。このシリーズはアメリカの喜劇映画大プロデューサー、ハル・ローチが生み出した大人気シリーズで、1922年から、22年間、通算221作品も製作されました。実は本日『ホット・クリスマス』も活弁付上映が初めてとなります。
本作は手彩色(てさいしょく)でフィルムを染めていて青い色の場面と赤い色の場面があります。この手彩色ですがフィルムをシーンごとに染料に漬け込んで、次に定着液にいれて、乾燥してから、他の色のシーンとつなげます。つまり、一度モノクロで完成させたプリントをわざわざ解体して、染めて再度つなぎ直しています。喜劇映画研究会が本作を所蔵していて、作品に関する情報もたくさんいただきましたが、経年劣化でフィルム自体が映写に耐えらそうになかったので、長い間上映しないで保管していました。この度最新技術でデータ化できたので、ようやく上映の日を迎えられた次第です。大変鮮やかで手間のかかった映像をご堪能ください。」

『ちびっ子ギャングの突貫ガラクタ列車』(1924年/米/21分)
監督:ロバート・F・マクガワン
出演:ジョー・コブ、ミッキー・ダニエルズ、アレン・ファリナ・ホスキンス

©喜劇映画研究会

 機関車に乗せてもらったちびっこたちは嬉しくてあちらこちらを触りたがる。「余計なことをすると追い出すぞ」と機関士、「いや、余計なことをしなくても追い出したほうが」とバニラさん。“弁士の声に耳を傾けなかった”機関士たち。案の定、大人たちが機関車を降り、目を離した隙にちびっこたちは勝手に機関車を動かしてしまう。あとからやってきた子が枕木に足を挟まれ身動きが取れなくなったが、止め方がわからない。危機一髪のところで、その場に寝転んで機関車を通り過ごさせる。「CGのない時代。なんと実際にやっています」に会場からはエーッと驚きの声が上がる。危険なアクションを子供たちが大人並みに演じるという、今ではあり得ない演出である。(逆に言えば、今の観客はCGが慣れっこになってしまっていて、本当にやっているなんて想像がつかなかったのだろう)

 大人たちに叱られて、追い出された子供たちは、今度はその辺のガラクタで機関車を作る。機関車だけではない。短い時間で線路を作り、ホームまで出来てしまう。まさに「世界の七不思議を八つに更新中」のツッコミのとおり。エンジンは犬、ガラクタを集めて作った機関車は、現実にはあり得ないが、夢がある。いわば友達を乗せて機関車を運転するとういう、多くの人が子供時代に描いた夢を、ちびっこギャングが代わりに実現してくれているという側面もある。今現在の子供たちが楽しくないはずがない。会場では子供たちの笑い声がひっきりなしに起こっていた。

 バニラさんは、子供たちの名前を丁寧に紹介する。「この子はジャッキー・コンドン、7年間で78作品に出演しました」おそらく会場でそこに興味を持っている人はほぼいないであろう。それてでも名前があったほうがわかりやすいし、それと同時に芸名で呼ぶことで、彼らへのリスペクトにもなるということもあるだろう。実際、『ホット・クリスマス』は『ガラクタ列車』の2年後の作品なので、彼らの成長ぶりを観客が感じられるという効果も生んでいる。しかし、なぜかいつも犬の名前は太郎、次郎である。これはこれで、なんだか親しみが持てていいのだ。

1 2

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)