【TIFF】ペルシアン・バージョン(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

©Yiget Eken. Courtesy of Sony Pictures Classics

1980年代にイランからアメリカに移住し、イスラム革命のために帰国できなくなったイラン人母娘の一代記。アメリカとイラン二国間の緊張関係の中で生きる人々を描く。随所に見られるミュージカル風演出が素晴らしい。

【クロスレビュー】

外山香織/シンディ・ローパーを聴きたくなる度度:★★★★★

在米イラン人のレイラは、何かと自分の歩む道を邪魔する母が疎ましい。しかし祖母の言葉をきっかけに、母の半生とある秘密を知ることになる。本作は監督の自伝的映画とのことだが、それゆえか大家族の描き方が面白い。レイラの8人の兄たちも、1人を除いて十把一絡なユルい扱いで、これが母と娘の緊張関係を際立たせている。物語は歌ありダンスあり笑いあり涙ありの王道路線だが、一方で「これっておかしいよね?」という疑問符を随所に滲ませる。アメリカではイラン人はテロリスト呼ばわり? 22歳と13歳の結婚って何? 男の所業が酷すぎない? それは親のエゴでは? などなど。また、ラストについては賛否両論あるだろうと思う。自分も少々モヤっとしたが、全てをチャラにできるわけではないにしても、互いの人生に思いを馳せ、歩み寄り、リスペクトするきっかけなのだと理解したい。世の中は不条理で、人生も山あり谷あり。生まれる国も親も選べないが、自分の人生は自分でコントロールしたいという意志は大事だと思える一本。

藤澤貞彦/女はたくましいのよ、男はだらしないのよ度:★★★★☆

シンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」(83年)がこの映画の主人公レイラのテーマソングとなっている。オリジナルのPVでは人種、性別の多様性までもが表現されている。歌詞も含めてこの作品のために作られたかのようにぴったり合っている。レイラは子供時代をイランとアメリカを往復して過ごし、イランではアメリカ人と指をさされ、アメリカではテロリスト呼ばわりされていた。大人になった今は、女の子と同棲していたのに、ドラッグ・クイーンの恰好をした男とも寝てしまう。常にどこにも属していない疎外感もあり、フワフワした生き方をしている。曲に合わせて、映像のほうもポップでテンポもいいのだけれど、何か落ち着かない。そんなところも彼女の生き方を反映している。
大家族に3人の女たち。祖母、母、娘。レイラと母親は馬が合わず、しゃべれば喧嘩になってしまう。妊娠してナーバスになる中、彼女は祖母から母親の過去の話を聞く。一家の知られざる歴史。イランのパートでは、それまでの軽快なテンポが重くなる。母への思いが変化したレイラ。自分も親になる。そんな彼女が口に出したひとことは、涙腺崩壊必至である。祖母から母へ、母から娘へ。娘から孫へ。芯の強いペルシアの女性たちの生が受け継がれていく。ラストは「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」のペルシアン・バージョン。ペルシアの楽器とアメリカのポップスが見事に融合して素晴らしい。イランとアメリカ、政治的には最悪の仲だけれど、いつかは融和してほしい。レイラはその夢の象徴にもなっている。


第36回東京国際映画祭
会期:令和5年10月23日(月)~11月1日(水)
会場:シネスイッチ銀座、丸の内TOEI (中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、丸ビルホール、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、有楽町micro、東京宝塚劇場(千代田区)ほか
公式サイト:https://2023.tiff-jp.net/ja/

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