【TIFF】エア(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

©LLC METRAFILMS©Metrafilms

第二次世界大戦の独ソ戦を戦う女性パイロットが遭遇する過酷な日々を年代記的に描く作品。これまで描かれることの少なかったソ連の女性兵士に『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』(18)のアレクセイ・ゲルマン・ジュニアがスポットを当てた戦争映画。

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/戦争は映画の顔をしていない度:★★☆☆☆

『戦争は女の顔をしていない』でも女性飛行士の話は出てきて、飛行機が落ちていくときの感覚や、自分は不死身だと思っていたこととか、敵機を撃墜して初めて男たちから感心されたなどのエピソードが出てくるが、同書は戦後にも更なる問題があったことが重要な位置を占めており、それを映画化した『戦争と女の顔』はさらに焦点を絞り、戦後のみに焦点を当てた作品となっていた。こちらは戦時中の体験がすべてではあるが、『戦争は女の顔をしていない』とも通底する作品となっている。同書は84年の作品だが、出版までには相当な困難があったという。そうしたことから考えると、今なお、こうした事実を映画にすることの意義は大きいのだと思う。空中戦のシーンでは、コックピットの彼女たちを正面から捉え、また彼女たちの見た目のショットを多用していることからも、彼女たちの体験を観客に追体験させたいという強い意志を感じる。ただひとつと残念なのは、今この映画を観てもロシアが戦争をしているという目の前の現実を見ると、考えすぎなのかもしれないが、かつてベラルーシもウクライナも一緒に戦った間柄ではないかという、監督の意図とは別のものが浮かび上がってしまうところである。純粋に映画を観られないという点で、嫌な時代になったなという気がしている。

外山 香織/名前を覚えられない度:★★★★☆

冒頭、レニングラードへの「命の道」での攻撃を受けて犠牲になる子どもたちの姿に思わず目を覆った。過酷な戦況下、それぞれに志を持って戦闘パイロットに志願した女性兵士たち。男性兵士からは「女は男の慰安をしていればいい」と侮蔑され衝突も起こるが、やがて実戦の指令が下る。彼女たちは歓喜するも、それは実力を認められたからではなく、男性パイロットが死んで人手がたりなくなったからに他ならない。結果、彼女たちもまた次々と命を落としスクリーンから退場していく。「名前を覚える前に部下が死んでゆく」と上官は嘆くが、観ている私も登場人物の識別ができなかった。ラスト3人くらいになってようやく分かってくるものの、人物に移入できず、後半の展開に唐突な印象を受けた。女性パイロットの存在を記録に残したいという思いは理解できるが、美しく描きすぎている気もしていて、国家への忠誠や英雄への眼差しなど違和感を感じざるをえない。ロシアのウクライナ侵攻という現実を前にしては尚更だ。


第36回東京国際映画祭
会期:令和5年10月23日(月)~11月1日(水)
会場:シネスイッチ銀座、丸の内TOEI (中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、丸ビルホール、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、有楽町micro、東京宝塚劇場(千代田区)ほか
公式サイト:https://2023.tiff-jp.net/ja/

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