『シャドウプレイ【完全版】』ロウ・イエ監督インタビュー

ある汚職事件を通して描く社会の縮図

2019年4月の中国公開から約4年の月日を経て、『シャドウプレイ』が1月20日に日本公開を迎える。本国公開時には検閲でカットされた映像を復活させた【完全版】としての上映だ。監督は、『ブラインド・マッサージ』など数々の話題作を世に送り出し、日本にもファンの多いロウ・イエ。本作が初めて日本でお披露目された19年10月、第20回東京フィルメックスのオープニング上映にあわせて来日したロウ監督に行なったインタビューを改めて紹介する。


※本稿は2020年4月発売の『華流スター&ドラマガイド 2020』(コスミック出版)に掲載された記事を、一部加筆・修正して転載したものです。

『シャドウプレイ【完全版】』

ロウ・イエ監督というと、「検閲」「製作禁止」という枕詞付きで紹介されることが多い。中国の現実と、そこに暮らす生身の人間を描こうとするロウ監督の映画には、確かに一部の人にとって不都合な真実と、見る者に不快感一歩手前で迫ってくる生々しさがある。
今年公開予定の『シャドウプレイ』もまた、中国の改革開放後30年にわたる社会の変化を、ある家族と周囲の複雑な人間模様にリンクさせて描き、中国社会の断片を突きつける。この映画のモチーフになったのは、広州市内にある “城中村”(都会の中にある村という意味で、老朽化した居住区)の冼(シェン)村で、2013年に実際に起きた汚職事件だ。
「実際の事件は非常に複雑で、そこには改革開放からの30年間を代表するような物語がありました。しかも、映画を撮る段階で、村はまだそこにあったのです。村の様子はまるで20年前の中国で、少し外側に行くと10年前の中国、さらに外に出ると現在の中国が広がっていた。1つの生活エリアに、3層の異なる時間と空間が一緒に広がっていたのです。冼村は“活きた標本”でした。そんな村で起きた汚職事件をもとに、この映画の第一稿を書き始めました。マクロな歴史を映画にすることはできないので、人、家族、人間関係にそれを落とし込み、彼らの人間関係が社会の縮図として浮かんでくるようにしたのです」

ロウ監督の作品といえば、上海(『デッド・エンド 最後の恋人』『ふたりの人魚』)、南京(『スプリング・フィーバー』『ブラインド・マッサージ』)など、街の湿度や空気感がもう1つの主役となっていることが多い。冼村は敏感な問題をはらんだエリアだが、撮影許可を取るのは容易だったのだろうか?
「最初の仕事は、美術チームが広州市の地図を見ながら、登場人物の家や生活圏などについて設定を考えることでした。この映画は製作の最初から広州市政府の多大な支援を受けています。確かに面倒なことも多かったのですが、市政府や村の住民委員会らにサポートしてもらい、最終的に撮り終えることができました」
冒頭の動乱シーンに心つかまれるが、そこは冼村とよく似た別の村で撮影したという。
「冼村はとても敏感なエリアなので、周囲を警察に囲まれ、撮影が許されてもごく短い時間で場所も限られていた。なので、暴動部分はよく似た『横沙村』という場所で撮っています。撮影は安全第一で、石や瓦礫は偽物を作り、事件当時の様子を再現しました。こうした仕事のおかげで、先日北京で行われたある映画賞の授賞式で美術賞をいただいています」

『シャドウプレイ【完全版】』

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