【TIFF】孔雀の嘆き(コンペティション)

映画と。ライターによる短評です。

【作品紹介】

©Sapushpa Expressions and Pilgrim Film

妹の心臓手術のために大金が必要となったアミラはとある会社で働き始める。それは望まれない妊娠で生まれた子供を外国人に斡旋する組織だった…。スリランカの逸材が描き出す社会のダークサイド。

【レビュー】

藤澤貞彦/貧しさと中国の影響度:★★★★☆

スリランカの映画を観ていて、ここまで中国の影が出てくるとは驚きだった。そもそもこの物語の中核となっている赤ん坊の斡旋ビジネスの元締め自体が中国人である。主人公が勤める高層建築の現場では「ここは補助金も入るし儲かるよ」と中国人の現場監督が同胞に電話している。建設があまり進んでいるようには見えないところもミソである。他にもマッサージ店で威張っている客も中国人。警察所長へのワイロも中国製の高級タバコである。この国に中国がいかに深く入りこんでいるかがよくわかる。富裕層や得体のしれない組織、公的な仕事についている人たちには受けいれられている中国人も、スリランカの一般市民には、決して良くは思われていないことが、この作品からもうかがい知れる。中国による債務の罠に陥り経済的に危機となり、大統領が辞任逃亡したニュースはまだ記憶に新しいところだ。赤ん坊の斡旋ビジネスの経営者だったスリランカ女性は、中絶ができなくなった女性を救うと同時に何より少しでも生まれてくる子供を救いたかったと、このビジネスを始めた動機を語っていたが、問題はそれ以前に貧富の拡大であることであることがきちんと描かれている。悲惨な話ではあるが、息子を失った経験のある経営者の女性が、主人公を息子のように思い、彼の家族を助けるラストに、監督のこの国への希望が見えた。



第35回東京国際映画祭
会期:令和4年10月24日(月)~11月2日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/

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