【FILMeX】すべては大丈夫(特別招待作品)

映画と。ライターによる短評です。

作品紹介

カリスマ的なイノシシの将軍に率いられた動物たちが人間たちを奴隷として支配するディストピアの世界。カンボジアの大虐殺から、近年は一般的な専制政治や虐殺をテーマにしつつあるリティ・パンの最新作。ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。

クロスレビュー

藤澤貞彦/すべては大丈ばない度:★★★★★

すべては大丈夫…それは為政者が民衆に語った言葉。もちろんそんなはずはない。そんな皮肉なタイトルとなっている。ジオラマの中に人形を置き、カメラがその中で動き回り、あるいは支配者の豚たちが見るテレビの中で、過去の衝撃的な映像が、万華鏡のように現れては消えていく。そこに詩や、台詞、さまざまな言葉、過去の現実音がシャワーのように降り注いでくる。いちいち書き留めたくなるような言葉の数々に流される中で、そこに留まることができない観客の頭の中に、その言葉と共にさまざまなイメージが刻まれていく。猿や豚の人形たちが演じる独裁者とそれに仕えるもの、支配される者たちのドラマはジョージ・オーウェルの『動物農場』を想起させるところもあるが、『動物農場』自体がソビエトのスターリンの体制をモデルにしたものであり、この作品とも共通したテーマを持っているので、親和性があるのかもしれない。そのスターリン自身も、支配者である豚たちが見るテレビの中で独裁者として登場する。ヒットラー、毛沢東、彼らの映像を喜んで見る彼らには、それがどのように映っていたのか。豚たちが住む監視カメラが立ち並ぶ町は、まるで中国のようである。過去から現在へ。この作品がこれまでのリティ・パン監督の作品と違うのは、現代の世界が持つ危険性にはっきりと言及されていることである。今世界は危機が迫っている。ジョージ・オーウェルのSF「1984」を超えた最新技術による国家による国民の統制。フリッツ・ラング監督の『メトロポリス』が象徴的に何度も映し出される。現実とSFの境界はあいまいになり、知らない間に私たちは身動きが取れなくなっていく。映画の登場人物たちのように、私たちは森へ帰っていくことができるのだろうか。


▼第23回東京フィルメックス▼

期間:2022年10月29日(土)〜11月6日(日)
【会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)
主催:認定NPO法人東京フィルメックス
共催:朝日新聞社/台北駐日経済文化代表処台湾文化センター/東京国際映画祭(UNIJAPAN)
公式サイト:https://filmex.jp/

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