【TIFF】クローブとカーネーション(アジアの未来)

映画と。ライターによる短評です。

【作品紹介】

©FilmCode

冬景色の南東アナトリア。年老いた難民の男は孫娘を連れ、亡妻の遺体の入った棺桶を引きながら帰国をめざす。しかし戦時下の国境を越えるのは難しく、さらなる困難が降りかかる。平和への希求が伝わる静謐なロードムービー。

【レビュー】

藤澤貞彦/静かなる男度:★★★★★

『テルアビブ・ベイルート』もそうだったが、この作品も国境の柵が主人公である祖父と孫娘に重くのしかかる。セリフが極端に少なく静かな作品だが、それがかえって彼らの哀しみを伝えてくれる。多分彼らはシリアから戦争を逃れてトルコに入ってきた人たちなのだろう。孫は流暢にトルコ語を話すが、祖父は片言しか話せないようである。故郷の地に埋めてほしいという、亡くなった祖母との約束を守るため、ヒッチハイクをしながら国境を目指す。夕日が燃える中、丘の上を歩く彼らをシルエットで捉えるシーンがいい。棺を引きづって歩く祖父の姿は、まるで十字架を背負って歩くキリストのようでさえあり、戦争によって故郷を追われた彼らの受難が象徴されている。彼らに何が起こったのかは、孫娘の描いた絵を見せることで、十分に語られている。祖父は大変厳しく頑固な人に見えるが、2人の情は彼らの見た夢や、細かいしぐさで豊かに伝わってくる。トルコ人たちは親切な人が多く救いにはなっているが、それでもファースト・シーンの結婚式がラストで祖父が見た夢と酷似していることをもって、当事者でないトルコの人々の限界をも感じさせてしまうところも秀逸である。



第35回東京国際映画祭
会期:令和4年10月24日(月)~11月2日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/

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