【TIFF】ライフ(コンペティション)

映画と。ライターによる短評です。

【作品紹介】

©Emir Baigazin Production

『ハーモニー・レッスン』(13)で鮮烈なデビューを飾ったカザフスタンの異才エミール・バイガジンの監督第5作。企業経営に失敗し、全てを失った男の彷徨を驚異的な映像で描き、人生の意味を問う作品。

【レビュー】

藤澤貞彦/人間なんてラララララ度:★★★★★

「私の人生のすべてがこの中に入っている」とスマフォを見せ、主人公の身重の妻が言う。スマフォの中に入っている人生っていったい何なのだろう。主人公の就いた仕事は、結婚式やお葬式、思い出のビデオを編集して、作品として依頼主に渡すビジネスだ。彼のミスによってそうした顧客の映像がすべて消えてしまう。お客からの苦情の数々に様々な人生模様が垣間見られるのが面白い。人はなぜ映像にこだわるのか、それが無くなったら人生は空っぽになってしまうのか、そんなところから人生とは何かを問いかける壮大な旅が始まっていく。葬式用に故人の人生を振り返るビデオを依頼してきた人物が裏の組織の人だったことから、主人公は半殺しの目にあい、また罪滅ぼしのためにと無理な仕事を押し付けられたことから、彼の彷徨が始まっていく。
主人公が彷徨する中で出会う人物たちがどの人もとても変わっている。宗教に身をゆだねながら同時に葬式泥棒をすることで生きている男。娼婦になりお金持ちになったものの、心が空っぽになってしまった女。臓器移植によっていくらでも生きられると豪語する金持ちの男などなど。目くるめく美しい映像と荘厳な音楽、鐘の音、カラスの鳴き声などさまざまな効果音や言葉がシャワーのように映画館に降り注ぐ。3時間近い上映時間、圧倒されて、ただただそこに身を委ねるばかりである。そのうち自分がとても小さな存在として感じられてくるから不思議である。これは人生についての映像詩。そこから感じとられるのは、人生は一瞬であり、宇宙からしたら人なんてちっぽけな存在に過ぎないということだ。苦難があろうとなかろうと、人間は自然の一部であり、限りなく死と再生を繰り返していくものだからだ。それが諦念ではなく、希望となっているところがいい。



第35回東京国際映画祭
会期:令和4年10月24日(月)~11月2日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/

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