【TIFF】アルトマン・メソッド(アジアの未来)
【作品紹介】
空手道場の経営不振にあえぐ夫と、妊娠中の妻。清掃婦になりすましたアラブ人テロリストを夫が「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱するが、妻は夫の話の不備に気づき始める。夫婦の姿からイスラエルの国情を捉えた意欲作。
【クロスレビュー】
外山香織/暗鬱たる気持ちにさせられる度:★★★★★
事件を契機に妻は夫の言動に違和感を抱き始め、やがて信じ難い現実を目の当たりにする。持てる者と持たざる者、人種や性差といった差別的な社会を背景に、窮地に追い込まれた人間がその本性を露呈する構図は、どこかアスガー・ファルハディ監督作を思い起こさせる。本作では、裕福なイスラエル人夫妻→無職のイスラエル夫妻→掃除を生業にするアラブ人夫妻というヒエラルキーがあり、さらにその中でも男→女という階層がある。その最下層である「テロリスト」と目された女性はほとんど言葉を発していないのは象徴的である。なにより「無力化」という言葉が恐ろしい。何が彼をそうさせたのかを考えるとき、結局人は何かを差別し、自分は優等であると思わずにはいられない生き物なのかと思わずにはいられない。日本にもそういう傾向が最近特に顕著になったような気がしている。
藤澤貞彦/罪の無力化度:★★☆☆☆
清掃人に成りすましたテロリストの女性を「無力化」したことが話題になり、閉鎖する予定だった空手道場が復活したことで上機嫌になる男が不気味すぎである。男が発した「無力化」という言葉は一般的な言葉では殺人に他ならないわけなのだが、この言葉に置き換えることで、男は自分の罪の意識を消そうとしたのだろうか。武道を修める者としてどうなのだろう。禊ぎをするのに寺院に行くこともせず、行ったふりをして世間を納得させるだけというのも軽すぎる。タイトルの『アルトマン・メソッド』とは道場のことではなく、この男の異様な価値観を示していたというわけだ。それにしても彼女が本当にテロ行為をしようとしていたのか(実は違う)まったく検証もしないまま、英雄に祭り挙げるマスコミもお粗末であり、そこにイスラエル人のパレスチナ人への偏見と差別意識が出ているのではなかろうか。面白い視点だとは思う。しかしこの作品、常に先が読めてしまい、知らないのは妻ばかりなりとなり、それでいてサスペンスも弱いというところに難があった。
第35回東京国際映画祭
会期:令和4年10月24日(月)~11月2日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/