『イスラーム映画祭7』ガイド

イスラーム映画から世界の現在、過去、未来を、学び考えてみよう。

今年も『イスラーム映画祭7』が2月19日(土)より渋谷ユーロスペースを皮切りに東京・名古屋・神戸の3都市にて開催されます。

特集として、昨年2月に新型コロナウイルス感染症により73歳でこの世を去ったムフィーダ・トゥラートリ監督を偲び、1994年製作、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール特別賞を受賞し、日本では2001年に劇場一般公開された彼女の監督作品『ある歌い女(うたいめ)の思い出』(チュニジア)が21年ぶりにリバイバル上映されます。チュニジア自体はそれでも世俗的な国ではあるのですが、女性監督自体は少なく、彼女はそのパイオニア的な存在であり、また一貫して女性の苦難を描き続けた映画作家でもあります。今回はほかに、その後継と言えるマグリブ諸国(チュニジア、アルジェリア、モロッコ)の女性監督の作品が併せて3本上映されます。

『ある歌い女の思い出』

『ある歌い女(うたいめ)の思い出』
(94/チュニジア)

ムフィーダ・トゥラートリ監督
『ヌーラは光を追う』
(19/チュニジア)日本初公開

ヒンド・ブージャマア監督
『時の終わりまで』
(18/アルジェリア)日本初公開
 
ヤスミーン・シューイフ監督
『ソフィアの願い』
(18/モロッコ)日本初公開

マルヤム・ビンムバーラク監督

『ソフィアの願い』

※2/19(土)11:00『ある歌い女(うたいめ)の思い出』上映後には、佐野光子さん(アラブ映画研究者)によるトークセッション《アラブ映画における女性監督の軌跡 ―ムフィーダ・トゥラートリ監督を偲んで》あり。
※2/19(土)16:30『時の終わりまで』上映後、和家麻子さん(危機管理コンサルティング会社勤務/アルジェリア滞在歴5年)によるトークセッション《映画から知るアルジェリア―知られざるその魅力》あり。
※2/24(木)13:30『ソフィアの願い』上映後、辻上奈美江さん(上智大学総合グローバル学部教授/明石書店『イスラーム世界のジェンダー秩序』著者)によるトークセッション《映画に見るイスラーム世界のジェンダー変容》あり

イスラーム世界においては、女性が生きにくい国が多いのは事実ですが、同性愛となるとさらなる困難があることでしょう。NHKで放映されたドキュメンタリー『性と革命とイスラム教〜セイラン・アテシュの挑戦〜』(21/ノルウェー)をご覧になった方もいるかと思います。この作品では、度重なる殺害予告にも屈せず、LGBTの人々でも同じように祈れるモスクを設立するなど、イスラームを男女やLGBTを問わないあらゆる人々に開かれた社会に変革しようとする、弁護士で宗教指導者のセイラン・アテシュの活動が紹介されていました。こうした勇気のある人たちの姿は、世の中に希望を感じさせてくれます。本映画祭でも、ゲイを公表しているイスラーム学者ヘンドリクス、同性愛者弾圧を逃れ難民として暮らすマーゼン、イスラームと同性愛の関係を探るマハとマリアムらがこの問題に取り組む姿を追った『ジハード・フォー・ラブ』が上映されます。

『ジハード・フォー・ラブ』(07/米=英他)
パーヴェズ・シャルマ監督
※2/20(日)11:00『ジハード・フォー・ラブ』上映後、辻大地さん(九州大学大学院博士後期課程)によるトーク《愛のために「たたかう」こと ―イスラームと同性愛の交差点を探って》あり。
※2/24(木)16:15『ジハード・フォー・ラブ』上映後、松下由美さん(映画プレゼンター/通訳/大学講師/Sintok シンガポール映画祭2009、2012主宰)によるトークセッション《セクシュアリティ、ジェンダー、労働問題― 映画が掲げるテーマに私たちは追いついているか?》あり。

昨年(2021年)8月15日、あっという間にタリバンがカブールに入城、全土を制圧したニュースは記憶に新しいところです。前の政権自体も、腐敗がはびこり貧富の差が広がるなど沢山の問題を抱えていたことは事実です。昨年の東京国際映画祭で上映された『ザクロが遠吠えする頃』(21/アフガニスタン=オーストラリア)グラナーズ・ムサウィー監督では、カブールの丘の上のスラムで暮らす、食べるのにも困る家族の窮状と、その地を襲う連合国による誤爆の問題が取り上げられていました。今となってはタリバンがカブールに入城する直前のカブールの様子が見られる貴重な映像となってしまいました。これはイラン出身の女性監督による作品でしたが、タリバンの綱領で女性の地位は、尊敬される母、大切な姉妹、気高い娘、貞婦とされ、男性とは役割が違うと定められているため、これからは女性が映画を監督するなどというのは、論外となることでしょう。実際タリバンのカブール入場後、異なるバックグラウンドをもつ女性たちを描いた「Hava, Maryam, Ayesha」を制作し、また女性として初めてアフガン映画協会会長となったサハラ・カリミ監督など、多くのアーティストが国外に脱出しています。
本映画祭では、もうひとつの特集として、アフガニスタンに関する映画が3作品上映されます。いずれも立場の弱い子供や女性が主人公であるところが、興味深いところです。

『アジムの母、ロナ』(18/アフガニスタン)日本初公開 
ジャムシド・マームディ監督
イランに暮らすアフガン難民を描いた愛の物語
『子供の情景』(07/イラン)
ハナ・マフバルバフ監督
2009年日本公開、学校に行きたいと願うアフガン少女の冒険
『ミナは歩いてゆく』(15/アフガニスタン)アンコール上映
ユセフ・バラキ監督
アフガニスタンに暮らす自発的少女のたくましい生き様
※2/23(日)11:00『ミナは歩いてゆく』上映後、西垣敬子さん(宝塚・アフガニスタン友好協会代表/明石書店『アフガニスタンを知るための70章』)によるトークセッション《一人で始めたアフガニスタン支援の28年 ―女性と子どもたちの今》あり。
※2/21(月)13:20『アジムの母、ロナ』上映後、2/23(水)14:30『子供の情景』上映後、ちゃるぱーささん(アフガニスタン音楽ユニット)、寺原太郎さん(インド音楽バーンスリー奏者)による《音楽で知るアフガニスタン ―トーク with ミニライブ》あり。

ミャンマーでは、昨年のクーデーター以降混乱が続いています。ここは英国植民地時代、ムスリムの集団が労働力確保のためインドから移住させられ(のちにロヒンギャと呼ばれる)、それがのちの混乱を招くことにもなりました。この地は元々『グラン・トリノ』に登場するモン族、シャン族などの少数民族やラカイン族、チン族、ビルマ族など多数の民族が存在している場所です。宗教で言えば、仏教徒が多数派ですが、ムスリム、キリスト教徒、ヒンドゥー教徒も存在し、それぞれが民族集団を形成しています。民族や宗教の違う者どうしはわかりあえないのか。暗澹たる気持ちになってしまいます。
かつて東欧には、ユーゴスラヴィアとという国が存在していました。「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」1943年から1991年まで、実に半世紀近く。なぜこれだけ長い間国家が継続し、かつあっけなく崩壊、分裂してしまったか。これを検証することは、あるいはこれからの世界の在り方のヒントになるかもしれません。本映画祭では、ボスニア紛争(1992-95)で傷を負った男たちのドラマ『泣けない男たち』をはじめ、宗教や民族を超えた人々のドラマを観ることができます。

『泣けない男たち』
(17/ボスニア・ヘルツェゴビナ=スロヴェニア=クロアチア=独)日本初公開

アレン・ドルリェヴィチ監督
ボスニア紛争(1992-95)で傷を負った男たちのドラマ
『天国と大地の間で』(19/ルクセンブルク=パレスチナ他)日本初公開
ナジュワー・ナッジャール監督
離婚間際の夫婦がパレスチナをめぐるロードムービー
『二つのロザリオ』(09/トルコ)アンコール上映
マフムト・ファズル・ジョシュクン監督
カトリックの女性に恋をしたムスリム青年の物語
※2/20(日)13:45『泣けない男たち』上映後、山崎信一さん(東京大学非常勤講師/岩波新書『ユーゴスラヴィア現代史 新版』)によるトークセッション《映画から読み解くボスニア紛争 ―傷ついた者たちのその後》あり。

他にもアンコール上映として過去の人気作が上映されます。
『ラシーダ』(02/アルジェリア=仏)
ヤミーナ・バシール=シューイフ監督
アルジェリア内戦(1991-2002)を描いた女性監督作品
『花嫁と角砂糖』(11/イラン)
レザ・ミルキャミリ監督
悠久のペルシャ文明を讃えたイラン映画の人気作
『青い空、碧の海、真っ赤な大地』(13/インド)
サミール・ターヒル監督
インドを南西から北東へと縦断する青春ロードムービー

※以上、全14作品、ゲスト・トークセッション9本の充実したプログラムで開かれるイスラーム映画祭7の詳細は、下記公式サイトをご覧ください。
公式サイト:http://islamicff.com/
Twitter : http://twitter.com/islamicff
Facebook : http://www.facebook.com/islamicff

【開催概要】

【東 京】
会期 : 2022年2月19日(土) – 2月25日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース( http://www.eurospace.co.jp/ )
【名古屋】
会期 : 2022年3月頃
会場 : 名古屋シネマテーク( http://cineaste.jp/ )
【神 戸】
会期 : 2022年4月30日(土) – 5月6日(金)
会場 : 神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/ )
主催 : イスラーム映画祭

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)