「香港映画祭2021」リム・カーワイ監督インタビュー

香港映画の新しい可能性に期待

日本初上映の香港映画を集めた「香港映画祭2021」が開催中だ。キュレーターを務めたのは、現在、最新作『COME & GO カム・アンド・ゴー』が公開中のマレーシア出身のリム・カーワイ監督。中国政府による表現の自由への締め付けが強まる中、香港で映画を撮り続ける監督たちが見つめている景色は、どのようなものだろうか?自身も香港で映画を撮ってきた経験を持つリム監督にお話をうかがった。

リム・カーワイ監督

「香港」を色濃く映す日本未公開作

――「香港映画祭2021」では7本の映画をセレクトされましたが(その後3本が配給会社の都合により上映中止に)。2010年の作品『酒徒』から2020年公開の新作まで製作時期の幅が広いですね。セレクトの基準は?

リム・カーワイ監督(以下、リム監督):今年の7月に「香港インディペンデント映画祭」を開催しましたが、その時のラインアップはほとんど香港で一般公開されてない自主映画でした。香港にはミニシアターがないので、あの時上映した作品は一般公開されてないんですよ。
今回は、「香港インディペンデント映画祭」と差別化するため、一般公開された映画を選びました。これが1つ目の基準。
2つ目の基準は、日本で今まで一度も紹介されたことがない作品だということ。日本の配給会社がどこも買わない、さらに東京国際映画祭や東京フィルメックス、大阪アジアン映画祭が選ばなかった映画です。
この2つの基準で選ぶと、自然と作品数が限られました。やはりアクション映画やジャンル映画は日本の配給会社が買っているし、たとえばアン・ホイ監督の作品のようなアート系は映画祭で上映される。今、香港では年間30~40本くらいの映画しか作られていないので、そのうち3分の2程度は日本で既に紹介されているんです。さらに自分が面白いと思う作品はもっと少なくなるので、ラインナップには古い作品も含まれることになりました。

――中国の豊富な資金力を目当てに、一時中国との合作映画が増えましたが、近年は香港人のアイデンティティを見直すような作品が増えている気がします。そういう傾向は、若者たちの民主化デモなどを経て、強まっているのでしょうか?

リム監督:中国による香港国家安全維持法(国安法)が施行され、反体制的な映画は取り締まりの対象になりました。政治的な意見を含んだり、あるいは政府に批判的な映画はもう絶対作れないことが分かったので、これからはそういう内容を避けて企画を開発するしかないんですよね。映画監督たちは、香港独立をほのめかすような映画も絶対作らないでしょう。
みんな分かってるんですよ。どうしても反体制的な映画を作りたければ、自主制作を撮るしかない。そして香港では上映せず、海外の映画祭に出して、海外で流通してから、どこかで香港人がそれを見るという未来しかない。

だから規制を認めた上で映画を撮っていくことになる。今はまだコロナ禍の影響で映画が本格的に制作されていない状況ですが、来年以降、少し落ち着いてからどうなるのか、僕はむしろ香港映画の今後を楽しみにしています。新しい映画の可能性が開けてくるんじゃないかという気がする。悲観的にとらえる必要はないと思います。

――リム監督が注目している香港の監督はいますか?

リム監督:香港政府が映画産業支援のために支給する「首部劇情電影計劃」という助成金があるのですが、毎年2本くらい企画が選ばれ、映画が作られています。そこで選ばれた監督たちは、みな優秀ですよね。今回ラインナップに入っている『最初の半歩』のスティーブ・チャン監督や、『誰がための日々』のウォン・ジョン監督など、受賞者の次回作には、皆注目していると思います。

香港、中国の現場を渡り歩いた

――現在、「リム・カーワイ監督特集上映」も開催中です。香港で撮影された『マジック&ロス』(10)、『Fly To Minami 恋するミナミ』(13)も見られるんですね。子供の頃から香港のエンターテインメント作品を見て育ったそうですが、リム監督と香港映画界との関係はいつからなのですか?

リム監督:日本で会社勤めをしてから、映画を作りたくて中国の北京電影学院に留学しました。その後、10年前に再び日本に戻ってきて、それ以来日本をベースに映画を撮っています。日本に戻ってくる前は、香港や中国で映画を撮ろうとしていました。

自分が映画監督になってから、今まで長編を8本作っているんですけど、そのうち3本は香港で撮っています。香港映画祭で上映する『深秋の愛』も香港で撮りました。自分の映画を撮る前から、香港の現場にスタッフとして参加していたりもして、香港の映画監督たちとずっと交流があったんです。

リム監督の作品『深秋の愛』


――当初、なぜ留学先に北京電影学院を選んだのですか?

リム監督:2004年に留学したのですが、当時の中国はまだそんなに発展していなくて、生活コストも安いし、何より中国市場に将来性を感じました。それに、北京電影学院というと、やはりブランドですから。でも、行ってみたら大したことなくて、辞めたんです。

――何年で辞めたのですか? 

リム監督:半年。

――早いですね(笑)。

リム監督:本科ではなく研修生だったのですが、先生が海賊版DVDで映画を見せて意見を言うだけ。それなら自分でも勉強できるし、現場に入って学ぶ方がいいと思ったんです。

――それから中国や香港の撮影現場を渡り歩いたのですね。

リム監督:日本では自主映画しか撮っていませんが、香港では商業映画も撮っているし、香港の映画の現場にもたくさん参加していたので、実は日本の映画業界よりも香港のほうが詳しいし、つながりがあるんです。だから香港人のために何かできたらいいなという思いがあります。

日本はすごく恵まれていて、特に東京には世界各国の映画を見られる環境があります。映画には、フランス映画もあるし、韓国映画もあるし、あまり馴染みのない国の映画もある。その中で香港映画祭を開催しているということは、多様性の中の、ささやかな一つだと思っている。だから、香港にはアクション映画や政治的なドキュメンタリー映画だけではなく、庶民的な作品や社会的テーマを扱った作品もたくさん作られているということを、今回の映画祭を通じて感じてもらえたらと思います。

「香港映画祭 2021」
■期間・会場
12 月 18 日(土)~12 月 24 日(金)シネマスコーレ(愛知)
12 月 29 日(水)、30 日(木)ユーロライブ(東京)
上映スケジュール等詳細は公式サイト:https://hkfilm2021.wixsite.com/official
Twitter:@hkfilm2021
主催:香港映画祭実行委員会

「リム・カーワイ監督特集上映」
■期間・会場
2021年12月18日(土)~29日(水)シネ・ヌーヴォX(大阪)、12月29日(水)・30日(木)ユーロライブ(東京)にて開催
上映スケジュール等詳細は公式サイト: https://cinemadrifter7.wixsite.com/mysite
Twitter:@LkWfilms
主催:cinema drifters 
 

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