(ライターブログ)日本映画3作品に注目〜第34回東京国際映画祭
コロナ禍で2年目を迎えた東京国際映画祭。会場が六本木から日比谷・銀座地区に移転したことで、気分も新たに。
今年は新しい日本映画との出会いを期待して、<アジアの未来>と< Nippon Cinema Now>部門で上映された作品に注目した。海外に紹介されるべき作品として厳選された新鋭監督によるものである。以下、鑑賞した3本について、公開日の早い順に紹介したい。
「スパゲティコード・ラブ」
監督:丸山健志
出演:倉 悠貴、三浦透子、清水尋也 ほか
2021年11月26日(金)より公開
©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
大都会トーキョーを舞台に、心揺れて彷徨う13人の若者たちを描いた群像劇。丸山監督にとって本作が初めての長編映画となるが、これまでミュージック・ビデオやCMなどの映像制作を手掛けてきたというだけに、リズムと切れ味が冴えわたる。登場人物それぞれの心の内を覗き見ているような感覚が新鮮で面白く、セリフもズバズバ刺さってくる。SNS上の人間関係や愛のカタチなど、今の世相における「あるある」や「本当にそれでイイの?」を絶妙な距離感で見つめ、疑問を投げかける。各エピソードが、ある時点から絡み合い、思いもよらぬ方向へ転がっていくのもツボ。人生の妙味はスマホ画面の「いいね!」ではなく、他人との摩擦にある、と思わせてくれる作品。
「彼女が好きなものは」
監督:草野翔吾
出演:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、今井 翼 ほか
2021年12月3日(金)より公開
©2021「彼女が好きなものは」製作委員会
爽やかで甘すぎず、好みの青春映画だったけど、色んな感情が溢れて止まらない。ゲイの男子高校生・純を演じた神尾楓珠が眼差しで語る。本作の衝撃の凄まじさは、同じくLGBTを描いた「君の名前で僕を呼んで」に匹敵する。いや、腐女子が絡んでくる分、それ以上かもしれない。ここには多くの人を救える力があり、そのポテンシャルは計り知れない。
妻子持ちのサラリーマン(今井翼をキャスティングした人、グッジョブ!)と密会している時以外は自分を隠していた純だったが、BL好きの女子に告白されたことで、縁がないと思っていた“ふつうの幸せ”を思い描くようになる。女子と交際して、友達と恋バナをする。そんな青春の日々はあまりにも儚く、切ないものだった。
ゲイの人がこれほどまでに自分自身の性的指向に苦しんでいたのかという驚きと、若者の柔軟な思考に心が揺さぶられた。腐女子という存在がこの世界を救うという視点も面白い。青春の輝きだけでなく、性的マイノリティの残酷な実情、そして希望をも描ききった力作。多くの人に観てもらいたい。
「よだかの片想い」
監督:安川有果
出演:松井玲奈、中島歩 ほか
原作:島本理生
2022年に公開
©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会
じんわり心に響く作品。頬に大きなアザのある女性と、彼女の周りにいる人たちの関係性がステキだと思う。コンプレックスと向き合う彼女の葛藤も、それを利用して映画化しようとする男性の下心も、理解して許せるのが本作の魅力だ。原作の持つ深みに俳優陣の佇まいが掛け合わさり、温かな空気感を醸し出している。演出した監督の手腕が光る。
アザを隠さない=自分らしさなのか?その意味を問うようなラストのダンス。松井玲奈さんの横顔が本当にキレイだった。松井さんはドラマでも難役をさらりと演じてしまう印象があり、今後も目が離せない女優である。
【第34回東京国際映画祭】
会期:令和3年10月30日(土)~11月8日(月)
会場:日比谷・有楽町・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:第34回東京国際映画祭(2021)