【FILMeX】時代革命(特別上映)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配に対する戦場へと変えてしまった。本作は、その法案が提出されて以降の香港市民による抵抗運動を、その歴史的背景を踏まえつつ、最前線で戦う若者たちの姿を中心に描いたドキュメンタリー作品だ。監督は『十年』の中の1篇『焼身自殺者』のキウィ・チョウで、他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていない。2019年以降の抵抗運動は、「分権化されたリーダーシップ」、柔軟な戦術を意味する「水になる」、領土全体を使った運動を展開する「どこでも開花する」などの特徴や指針を持っていたが、本作は役割やリーダーシップが分散化された運動家たちのいくつかのグループや個人を追い、この運動の多様な動きの全体像を捉えようとしている。

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/民主化運動への接近度:★★★★★

香港の民主化運動の映像自体は、SNS上で見たことがあるものが多数含まれてはいるものの、いくつかのグループや個人、テーマを分けて、その全体像を捉えようとした作品である。その多くが個人がその真っただ中で撮影したものなので、臨場感が半端ではない。そもそも香港人は、政治には関心が薄い人たちだった。自由にモノが言えて、自由に経済活動ができればそれで満足。いつも騒音の中にいるような猥雑さ、それを愛していた人たちだった。祖先の多くが自由を求めて大陸から逃れてきた人たちだから、それを奪われることは死に等しい。そんな切実さがある。警察の動きに合わせて、「水になれ」の言葉どおりにデモの群衆が集まり、また四方に散っていく映像を空から捉えた映像が圧巻である。かつてブルース・リーが唱えたこの言葉が、この運動を象徴している。各個人は、自分のできることに集中し自由に活動している。救護班の人、車でデモの参加者の送迎をする人、警察の接近を知らせる人。特に全体のリーダーというのは存在しない。それでいてきちんと統制がとれているのがよくわかる。自由な個人による水のように動ける集合体。それがいかにも香港らしい。香港という場所以上に香港人が好きだというような発言がある。香港人の気持ちをよく代弁している。映像を集めるにあたって、たくさんの人の協力が水面下であったことも想像がつく。この作品はそこに生きる香港人への愛がたくさん詰まった作品でもあるのだ。

外山香織/香港加油:★★★★★

デモ隊と政府の衝突。映画の冒頭から映し出される激しさは、これが現代に実際に起こっていることなのかと疑いたくなる光景だ。制作スタッフの名は監督以外秘され、映像の中でも顔や名前を明かすことは非常に危険ということでマスキングされている。フィルメックスで上映されることが発表されたのも上映日の前日であった。上映が妨害される恐れがあるためだ。そして香港の人々は、まさにそういう世界に生きている。民主化運動を行っている彼らの中には、明確なリーダーがいるわけではない。また、自分がどこの「分野」を担うかも自由である。老いも若きも、自由意思で(そして命懸けで)参加している。映画の中で「水になれ」という印象的な言葉がある。どこへでも流れていく水のように柔軟に、臨機応変に動く戦術を表している。一方で水は、集まればやがて本流となり、大きなものを押し流すほどの力を持ちうる。その意味で「水」はとても象徴的であり、香港の人々は「流れ」を自分たちで作りコントロールする権利を求めているのだと思う。当局に逆らえば収監され、普通選挙すら行われない実態にNOを突きつけるのだ。翻って、日本の選挙の投票率の低さを考えると恥ずかしさを感じる。香港の人々が熱望して止まないものを、私たちは持っている。その権利を、その行使を簡単に手放してはならないと改めて思う。本作に携わった全ての人々に、また、この映画を日本で上映するために尽力した関係者の方々に、拍手を贈りたい。

「第22回東京フィルメックス」開催概要

会期:2021年10月30日(土)~11月7日(日)
会場:有楽町朝日ホール(メイン会場)/ヒューマントラストシネマ有楽町(レイトショー会場)上映プログラム:東京フィルメックス・コンペティション、特別招待作品、メイド・イン・ジャパン
公式HP:https://filmex.jp/
※2021年も「第34回東京国際映画祭」(10月30日(土)~11月9日(月))と同時期に開催。昨年に引き続き、「映画界の連携強化」の理念のもと、多様なメディアとも連携し情報発信の相乗効果を生み出すことを目指します。
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