【TIFF】一人と四人(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©Mani Stone Pictures

密猟が横行する雪山。山小屋の管理人の前にひとりの男が現れ、やがてひとり、またひとりとクセのある男たちが山小屋を訪れる。チベット映画の雄、ペマ・ツェテンがプロデュース。

クロスレビュー

藤澤貞彦/男たちがむさ苦しい度:★★★

チベット映画界を牽引するペマツェテンの息子の監督テビュー作である。『羅生門』的ストーリー展開といい、極寒の中なのになぜか汗臭い男たちしか出てこないという点では、黒澤明風な感じもあり(森林管理人ジンパが三船、同郷の小ズルいチベット人が藤原釜足といったところか)、父とは作風が違うが、チベット人の今がテーマという点では、共通点がある。誰が密猟者で誰がそれを追う者か、警察を名乗る男が2人出てくるが、結局はわからずじまいである。ただ森林管理人を訪ねてきた同郷のチベット人の男だけは、密猟者の仲間であることが判明する。殺生を禁ずるチベット仏教の民であるのに、生活難から、あろうことか密猟の協力者になってしまう男の悲劇。警察を名乗る2人の男のどちらが密猟者で、どちらが警察であっても、チベットにとっては侵略者に過ぎず同じであるという皮肉。この男たちの関係の中に、北京とチベットの関係性が透けて見えてくる。きちんと検閲を通っている中で、中国におけるチベットの置かれた立場を表現している点が見事だ。

ささきまり/ドアから顔を覗かせる鹿の表情になにか賞をあげたい度:★★★★

雪深い山小屋を舞台に繰り広げられるサスペンス。“四人“のうちの一人である山の管理人は、鹿の密猟者を取り締まるという使命に不器用なほど忠実な一方、妻に離縁されるかもしれないという個人的危機でもう頭がいっぱい。そこに、警察官を名乗る男やら同郷の知人やらが次から々へと現れる上、この山がチベットと中国の国境いにあることでそのどちらかの言語しか理解できない者がいるために、事態は混迷を極めていく。誰が密猟者=悪人か、という単純な物語でありながら、いったい誰が本当のことを言っているのかさっぱりわからず、最後までハラハラさせられ続けた。主人公が付けている山小屋日誌にしても、考えてみれば、その内容が事実なのかどうかは書いた本人にしかわからないわけで…などと思っているうち、唐突に訪れるラスト。あっけにとられているうちにエンドロールが流れ始めるという見事なリズム感に、思わず拍手した。鹿は、チベットでは神の使いとも言われているそうで、その神話的な存在感が主人公のピュアさを保証してくれているようにも思える。まだ二十代半ばだというティンレー監督の次作が楽しみ!


第34回東京国際映画祭
会期:令和3年10月30日(土)~11月8日(月)
会場:日比谷・有楽町・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:第34回東京国際映画祭(2021) (tiff-jp.net)

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