オカンの嫁入り

母から娘へ

<物語の核心に触れております。ご注意ください。>

レビューを書くにあたって、「オカンが余命一年」と書くとネタバレだなと思っていたら、予告編でも流しているし、キャッチコピーでも堂々と書かれていたので、ちょっと驚いた。 予告編を見た人は「余命○ヶ月の花嫁、オカン版」と捉えるかもしれないが、テイストは異なるのではないかと思う。
物語は、娘・月子(宮﨑あおい)の視点で描かれる。母ひとり子ひとり、支えあって生きてきたのに、母(大竹しのぶ)は突然自分に相談もなく結婚すると言い出し、若い金髪頭の男・研二(桐谷健太)と同居を始めた。月子は面白くないが、研二の温厚な人柄に少しずつ態度を軟化させていく。しかし、ここで母が秘密にしていた「余命一年」が発覚する…。 製作サイドは、ここまではネタバレしても大丈夫と言う判断なのだろう。つまり、これからが核心というわけだ。本作の求心力は「余命一年のオカンがなぜ結婚すると言い出したのか」の一点。 「私が出来ることは、月ちゃんに、私らしい生き方を見せること」 それがオカンの嫁入りの理由である。 20代半ばの娘を一人残して死ぬとなったら、むしろ娘に「いい人を見つけてやりたい」と思わないだろうか。
私はイザベル・コイシェ監督の『死ぬ前にしたい10のこと』と言う映画を思い出した。残される夫や子どものために、自分の代わりを見つけようとする主人公。 …しかし、本作のオカンは「自分の背中をしっかり見とけ」と思うのである。自分の人生は、自分の人生。そして、その思いは娘に届くはずと言う確信。それはなんとも潔く、そして、自分の人生に誇りを持っている人間にしか出来ないことではないだろうか。 自分、もしくは家族がガンを宣告されて…というのは、ドラマ的には特殊な話とは言えない。むしろ、そのような経験をしている人々は世の中にたくさんいるだろう。死は日常の中にあって、それでも人は生きていかなければいけない。誰しもの身に起こりうる出来事を、ユーモラスかつ穏やかな目線で描いた本作。大切な人を思い浮かべながら、見てほしい。

オススメ度★★★☆☆
Text by 外山 香織
【監督・脚本】呉美保
【原作】咲乃月音
【キャスト】宮﨑あおい/大竹しのぶ/桐谷健太/絵沢萠子/國村隼
『オカンの嫁入り』公式サイト

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