燃ゆる女の肖像

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

(c) Lilies Films.

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。監督は本作で長編映画4作目ながらにして輝かしい受賞歴を誇るセリーヌ・シアマ。マリアンヌには本作でセザール賞にノミネートされたノエミ・メルラン。エロイーズにはシアマ監督の元パートナーで、セザール賞2度受賞のアデル・エネル。2019年の第72回カンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞している。

【クロスレビュー】

外山香織/ラストシーンのためだけにもう一度見たい度:★★★★★

『タイタニック』に似ていると鑑賞中に何度も思った。逃げ場のない場所で意に沿わぬ結婚を迫られる貴族の娘、彼女を抑圧する母親、そしてある画家との出会い。レオナルド・ディカプリオがケイト・ウィンスレットをスケッチする場面は屈指の名シーンだが、惹かれ合う画家とモデルの交錯する視線というのはなんと濃密なのだろう。貴族の娘エロイーズを演じたアデル・エネルもどことなくウィンスレットに似ている(と思う)。エロイーズは修道院から呼び戻され、孤島の館に半ば監禁状態での生活を強いられる。「修道院には図書館も音楽も歌もあったのに」。画家マリアンヌが持参していた書物を貪るように読むエロイーズ。書物、音楽、絵画。ふたりが愛し合う過程においてこれらの存在は不可欠だった。マリアンヌが好きな曲だとオルガンで弾いたヴィヴァルディの協奏曲「夏」、エロイーズが朗読したオルフェウスとエウリュディケの神話。そしてそれらは、その後のそれぞれの人生の大きな楔となって効いてくる。ふたり過ごした時間よりも圧倒的に長い、その後の時間を、ふたりはその楔を抱いて生きようとした。良くも悪くも簡単にSNSで繋がってしまう今の時代こそ、観るべき映画。

富田優子/女は男より強い:★★★★★

見終わってため息しか出てこない。どこを切り取っても美しく、品格があり、まるで女性たちの矜持が凝縮された映画だった。
18世紀のフランス・ブルターニュの孤島を舞台とした本作。男性優位な社会にあり、女性が意のままに生きることが難しい時代だ。エロイーズとマリアンヌの秘められた恋愛は成就することはない。そのことは彼女たちが一番よく理解している。だが彼女たちは決して悲観しているわけではない。制約のなかでも愛を確かめ合い、貫き、互いを思うがゆえに潔い決断をする。エロイーズの「振り返ってみて」と促す言葉が鮮烈だ。これは彼女たちが語り合っていたギリシャ神話のオルフェウスの物語(亡くなった妻を連れ戻すために冥界へ行くオルフェウスだが、帰り道でつい妻を振り返ってしまい、彼女は冥界へ連れ戻されてしまう)を引用しているもので、エロイーズによる物語の解釈が反映されている。振り返ることで失うもの、でも心に残るもの、未来へ繋がるもの。マリアンヌがオルフェウスの立場にあたるだろうが、神話の彼とは違う。悲嘆に暮れることなく、自暴自棄にも陥らず、彼女は画家として生きる。女は男より強い。そんなメッセージを感じる。


12/4(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次公開

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