【TIFF】遺灰との旅(TOKYOプレミア2020)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©Nine Archers Picture Company, 2020

一家の大黒柱が亡くなった。遠く離れた思い出の地に遺灰を撒くまでは遺書を読むな、との指示に従い、残された者らは車で一路パンダルプールの川を目指す。インド的な笑いと涙に溢れたシニアたちのロードムービー。

クロスレビュー

藤澤貞彦/フェラーリワゴンのインチキ度:★★★☆☆

頼りがいのある家父長を中心にし、三世代が一緒に住み、笑顔が絶えないインドの理想の家族の紹介番組。そんなテレビに出るほどだった家族の大黒柱が亡くなった時、その幻影はガラガラと崩れ落ちていく。遺灰を故郷のパンダルプールに撒いてくれという遺言から始まった家族の旅は、波乱に満ちている。遺産を巡る密やかな期待、そこにそれぞれが抱える問題が噴出する。移動に使う赤いワゴン車にはフェラーリのエンブレムとロゴが誇らしげに引っ付いている。(そもそもそんな車実在するのか!?) 故障ばかりしているだけに、名ばかり高級感を装ったようなうさん臭さがある。それが、問題だらけなのに順風満帆を装うこの一家をよく象徴している。一家団欒の夢のため、散財してこの車を買った故人もまた、しかり。車中、団欒どころか皮肉にも揉め事ばかりで、遂には車が丸ごと炎上してしまうのは、当然の成り行きとも言えるだろう。パンダルプールはヒンドゥー教の聖地のひとつ。いくら綺麗に装っても神の目は欺けない。でも人間って、バカだけれど面白くて愛おしいのだ。

外山香織/故人の反面教師度:★★★★★

自分が死んだら指定の場所に散骨してほしいという長兄の遺言により、ワゴン車で旅に出ることになった老いた弟妹たちと長兄の息子。家長の権限が大きく、長兄の言葉は死してもなお力を持っているのはインドというお国柄もあるのだろうか。車に乗り込んだ曲者揃いの面々に、「これ、最初はバラバラだけど旅していくうちにまとまっていくパターンでしょ?」と思いきや、全く予想外の結末である意味清々しい気すらしました。得られた教訓はふたつ。第一に、ウソは(しかも案外最悪のタイミングで)バレるものだということ。第二に、人には頼らず自分の人生は自分で落とし前をつけるべし。


【第33回東京国際映画祭】
会期:令和2年10月31日(土)~11月9日(月)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2020.tiff-jp.net/

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