(ライターブログ)劇場版 名探偵コナン 業火の向日葵

【映画の中のアート #21】  災難続き!? ゴッホの「ひまわり」

開幕が待たれる「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」

2020年3月3日に国立西洋美術館で開幕予定であった「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」。この度の新型コロナウイルスの影響で開幕時期が未定となってしまいましたが(2020年3月15日時点)、本展の目玉はなんと言ってもフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)の「ひまわり」(1888)でしょう。このたび初来日となったわけですが、そもそもロンドン・ナショナル・ギャラリーが同館人気ナンバー1とも言われる絵を貸し出すこと自体、すごいことで……私も展覧会の開幕を心待ちにしている者のひとりです。

ところで、ゴッホの描いた花瓶に挿してある「ひまわり」は7点あったと言われていますが、そのうち失われてしまった1点が日本にあったというのはご存知でしょうか。「芦屋のひまわり」と呼ばれるこの絵を題材に取り上げたのが、『劇場版 名探偵コナン 業火の向日葵』。2015年に公開された名探偵コナンの劇場版シリーズ第19作です。もしかしたらこの映画で「芦屋のひまわり」の存在を知ったという方も少なくないかもしれませんね。この「ひまわり」は、1920年に大阪の実業家である山本顧弥太が購入しましたが、1945年の第二次世界大戦の空襲で焼失したとされています。そもそも、この絵は彼が独断で購入したのではなく、白樺派の作家である武者小路実篤に依頼されたもの。当時欧州で注目されていたセザンヌやゴッホらの絵画を日本に紹介するために美術館を作りたいと考えていた武者小路の構想に、山本が応えたのです。結局のところ、戦争により美術館建設は実現せず、山本の会社も倒産。しかしながら彼は「この絵は預かり物だから」と手放さず芦屋にある屋敷で保管していましたが、空襲により全焼してしまいました。現代、私たちが「芦屋のひまわり」の造形を見ることができるのは、当時の写真や図録が残されているからです。濃いブルーを背景に、6輪の黄色いひまわり 。映画は、その「芦屋のひまわり」と同じ構図の絵画がフランス・アルルで発見され、日本の「鈴木財閥」がオークションで競り落とすというところからスタートします。

もちろんそんな事実はないわけですが、映画の設定としては「芦屋のひまわり」は実は焼失していなかった、そしてなぜ戦禍を免れたのかというところにひとつのドラマが組み込まれました。そして、この映画にはもうひとつの壮大な夢ー鈴木財閥が「日本に憧れたひまわり展」として、世界に散らばっているゴッホの「ひまわり」7点を「レイクロック美術館」に集めて展示する企画が展開します。なぜ壮大な夢なのか。それは、焼失した絵を除いたとしても残りの6点を一気に日本に集めるということ自体、現実には不可能だからです。

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