『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』ビー・ガン監督

ぼんやりした記憶が繋がったらどうなるか?

ヒロインのタイ・ウェイは当て書き

ーー俳優にとってもトライしたことのない撮影方法だったと思いますが、気を遣った部分はありますか?

長回し部分に登場するキャストは、映画に対して情熱のある俳優とアーティストばかりです。シルヴィア・チャン、タン・ウェイ、ホアン・ジエなど、もともと芸術に対する探究心が強い。私のことを信頼してくれましたし、一度一緒に失敗を経験しているので、みんなこの撮影の難しさを分かっています。ですから、スケジュール調整を重ねて改めて時間をつくり、撮影を完了させくれた。幸い2回目で成功したからいいものの、もし失敗していたら、今ここでインタビューを受けることもなく、まだ撮り続けていたかもしれない(笑)。

ーー『凱里ブルース』のキャストは素人だったのに対し、今回はタン・ウェイのようなスター女優やベテラン俳優が出演しています。タン・ウェイは『ラスト、コーション』などで日本の映画ファンにも知られていますが、彼女と仕事をした感想とその魅力を教えてください。

『凱里ブルース』と違うのは、今回はヒロインがスターのように人を魅了する女性でなければならなかったことです。ですから脚本を書く段階で、ヒロインにはタン・ウェイの顔を思い浮かべていました。彼女との仕事のプロセスは、そのまま一緒に危険を冒すような道のりでした。私も彼女のようなスターと仕事をしたことがなかったですし、彼女もこのような実験的な映画に出たことがなかったので、1シーンごとに議論を重ね、互いをよく理解し合えた良い状態で撮影できたと思います。

ーーキャストといえば、ヤクザ者を演じたビー監督の実の叔父チョン・ヨンゾンさんが素人とは思えないオーラを醸し出されていました。どんな演技指導をしたのですか?

親戚なので、彼のことはとてもよく理解しています。彼も私を信頼していますし、言葉でのやり取りは必要ありませんでした。彼への演出は特殊で、私たちがどんな風にキャラクターを設計しているのかや人物の背景は伝えず、ただ準備の2か月の間、ひたすら自分のダンスのパートを特訓してもらい、撮影を終えられたらそれでいいと話していました。彼は「自分が演じるのは“傷ついた男”である」と知っているだけでよかった。残りのことは、私たちで何とかするという方針で臨みました。

ーー才能のある方が身内にいらっしゃったわけですね。以前はどんな仕事をしていたのですか?

警備員など、いろいろ平凡な仕事をしていました。過去に経験したいくつもの職業が、今、貴重な経験となって生かされています。
今はプロの俳優として活躍していて、先日、町田で映画の撮影を終えて帰国したところです(※この取材は2019年12月)。私と仕事をしているプロデューサーが手がけた留学生の映画で、中国料理店のコックの役をやったと聞いています。




2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開
配給:リアリーライクフィルムズ+ドリームキッド
(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.


ビー・ガン 毕赣
1989年6月4日、中国・貴州省凱里生まれ。2013年、短編『金剛経』(原題)が第19回香港IFVA賞ニューフェース部門特別賞を受賞。2015年、『凱里ブルース』で長編デビュー。第68回ロカルノ国際映画祭新進監督賞、第37回ナント三大陸映画祭熱気球賞、第52回台湾金馬奨最優秀新人監督賞などを受賞。長編2作目となる『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でお披露目され、その後数々の映画祭で上映されている。

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