【TNLF】レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー

アイスランド発のスプラッタ映画は意外な社会風刺?

もうとにかく、ムチャクチャで笑える!
アイスランド発のスプラッタ映画なのだが、内容がすごい。『レイキャヴィク』は、アイスランドの首都の名前。『マサカー』は虐殺(=MASSACRE)の意味。つまり、ホエール・ウォッチングのためにレイキャヴィクを訪れた外国人が“この国に来たことを後悔させてやる!”と叫ぶ精神異常の漁師一家に虐殺される映画だ。

マサカー

(c)TNLF_2011

一見、自国のイメージダウンにしかならないような、こんな作品を海外で上映してしまおうという大らかさはアイスランドのお国柄か?日本人の感覚からしたら正気とは思えないが、殺戮の動機も、捕鯨を禁じられて食えなくなったことへの怨みというところが輪をかけてまたすごい。国際社会にケンカを売っているのか?劇中でも語られるが、もともと捕鯨国だったアイスランドは、捕鯨禁止措置のために、鯨関係の産業が今ではホエール・ウォッチングにシフトしているとか。“捕鯨をさせろ~!”というアイスランド国民の本音がストレートに出ているんじゃなかろうか。

被害者となる外国人には同じ捕鯨国のよしみ(?)か、日本人夫婦も登場するのだが、彼らのステレオタイプな描写も笑える。船酔いした妻を“愚妻”と呼んで周囲にヘコヘコ頭を下げる夫。日本人から見たら、“今どきこんなのいるか~”という感じで違和感ありあり。でも、その卑屈な行動を他の外国人にバカにされていることに気づかないあたり、日本人の国際感覚の欠如を見透かされているようで、笑いつつもちょっと冷や汗…。ちなみに、日本人夫婦の家政婦(秘書?)を演じるのは「硫黄島からの手紙」などで活躍する国際的派女優、裕木奈江。彼女の非情な活躍も見ものだ。その他にアメリカ人、フランス人など様々な国籍の人間が登場するのだが、一致団結して殺人鬼に立ち向かおうとしないのも可笑しい。ほとんどが互いを差別し、バカにして自分勝手な行動を取るばかり。はっきり言って、殺人鬼たる漁師一家もさして強いわけではなく、全員が協力すれば倒せるだろうと思うのだが、誰一人としてそれを提案しない。このあたり、協調性に欠けた国際社会の姿を意外に的確に風刺しているのかも。

タイトルからホラー映画の名作「悪魔のいけにえ」(原題:THE TEXAS CHAIN SAW MASSACRE)を連想する向きも多いと思うが、同作品で殺人鬼レザー・フェイスを演じたガンナー・ハンセン(アイスランド出身)が出演しているのも見どころ。
正直、かなり荒っぽい作りであることには間違いないのだが、意外に鋭い風刺が込められたB級映画の快作。様々な人間の運命が分かれるラストも意味深で、思った以上に楽しめるはずだ。

Text by いの
オススメ度★★★☆☆
【原題】REYKJAVIK WHALE WATCHING MASSACRE
【監督】ジュリアス・ケンプ
【出演】ビーラ・ヴィターラ、裕木奈江、テレンス・アンダーソン、ミランダ・ヘネシー、ガンナー・ハンセン
2009年 アイスランド 90分
6/4(土)より銀座シネパトス、新宿K’s cinemaにて公開
「レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー」公式サイト
「トーキョーノーザンライツフェスティバル」公式サイト

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